チャイとスパイス1年ほど、都内のインドカレーレストラン(有名店ではない)でバイトをした。オーナーはバングラデシュ人で、インド人のコックが二人。ウエイトレスは私だけ。 オーナーは日本語が出来るが、コック達はヒンディー語で、英語も日本語も殆ど話せない。 というか私の英語力もコックさん達と似たようなものだが・・・私は勝手にインド人はイギリスの影響で英語が喋れると思っていた。 メニューにはカレーの写真に全部番号が振ってあり、伝票に番号を書いて客の注文をコックに伝えるのだが、最初の頃は、写真とカレーの名と番号とコックが調理してこちらに渡すカレーが一致せずあたふたした。どれも似たようなカレーなので。 注文を伝える時には、一応オーナーの言うのを真似て「エ・サーグチキン」(ほうれん草のチキンカレーひとつ・「エ」はヒンディー語でひとつって意味らしい)とか「ドゥ・プレーンナン」(「ドゥ」はふたつ。プレーンのナンふたつ)などとも言ってみたりして、 少しばかり外国人と働いてます、ふうな気分になってみたりもしたが、 逆にコックに「ハイ、ヒトツ」などと日本語で返されたり。 伝えられたメニューがかなり多くてもコック達は間違えないというのはオーナーに言われていた。 そうか、印度人はすごい桁の計算が出来るそうだからな、とか訳のわかんない納得をする私(普通厨房の人はどこでもちゃんと注文は覚えていないといけないんだよね?) 今日は店が空いていると見るとオーナーは「営業」を兼ねて近所の飲み屋などに出かけてしまうのだが、何故かこういう時に限って急に混んだりする。そうなるともう、接客は私一人でてんてこまい。 こっちがある席で注文をとっているのに、向こうから「すいませーん」と言われると内心「見りゃーわかるだろーが!今忙しいんだよっ」とも思う。 こういう経験があるので自分は他の店で飲んでも、忙しそうな人になかなか声をかけられない小心者である。 それにしても、客商売、こと飲食業というのは人を見るのに勉強になる。 お客の殆どは「好き」で入ってくるわけだが、いわゆるいかにもエスニック料理好き、な感じは女性客、メニューに書いてない「マンゴーラッシーを」などと言われたりする。 私自身そうだったのだが(←シロート!)結構「タイカレー」と混同している。 本場のタイカレーは知らないが、あのココナツミルクとナンプラーだかの猥雑な匂いはしない。インドカレーはやはり「スパイス」の料理なのだろう。 それとラッシーだが、一応私もオーナーに教わりミキサーでヨーグルトと水と氷と砂糖でラッシーを作っていたが、ある時外国人の客に「砂糖抜きで」と言われ何も味付けせずに出した。 ところがオーナーに「何も入れてないのか」と注意された。 砂糖を入れない場合は塩を入れるらしい。んなこと知るわけがない。 ビジネス街の店だったのでサラリーマンの男性客も多く、おそらく殆どが「辛いもの好き」というので入ってくるのだろう。しかしたまに「辛くないのはどれですか」と言う客もいた(笑) そしてまぁわかるのだが、興味本位で入ってくる何割。 色々注文して食い散らかし、かなり食べ残していくというパターン。これを片付けるコック達は複雑な表情だった。私も日本人として恥ずかしい。わからない食べ物なら様子を見ながら注文することはできねーのか、と思う。 あと、そういう店じゃないのに(まぁ一応メニューにウィスキーがあるから)水割り何杯も注文するオヤジ。私自身が水割り嫌いだから(ストレートかせめてロックだろ)あんな安ウィスキーの薄い水割りで満足なのが信じられない。 外国人の客も結構来た。 コックに聞かれたので、パキスタン人の客だと私が告げると彼らは「嫌い」だと言った。うん、なるほどな。核持ってる同志だしね。 あとインド人が「嫌い」と言ったのは中国人、「あいつら何でも食べる、イヌネコヘビカエル・・・」みたいなこと言っていた。コック達はヒンズーなので豚も牛も食わない。 そのエキスの入ったものも食べない、だから日本のラーメンも食べたことないと言った。 そういう徹底の仕方はさすがだ。宗教心というより、もう「そういうもの」ということで育っているんだろうな。 ちなみに中国人の客というのは私の知る限り来たことなかったけど。 意外に白人が来た。黒人は来なかったが。 白人はドイツ人の大男グループや、北欧の綺麗な男性や子供連れやらビジネスマンやら色々来た。「英語の勉強」というほどにはならなかったが、じかに話せる楽しい機会だった。 界隈に勤めてるのだろうインド人のビジネスマンもよく来た。 そのうちの一人がハンサムで私の密かなお気に入りだった。(それを知るオーナーに「ほら君の好きな男が来てるよ」とからかわれた) 彼らはコック達と違い綺麗な英語を話した。インドのカースト制が今現在どの位行われているのか知らないが、17歳くらいからナンを焼いてるというコック達とこのビジネスマン達(凄く知的な感じの女性もいたが)は明らかに違うカーストに思われた。 そして私には面白く思えたのが、ビジネスマンとコックが親しげに挨拶することだ。ビジネスマンの方はエリートかもしれないが、そういう「上下」の雰囲気はしなかった。 少なくとも日本人のビジネスマンが外国に赴任しているとして、 そこで会った一介のコックにはしないだろうという親しげな感じだ。 これはカーストが決まっているからこそではないのか、とまたも私は勝手に考えたのだが。 それにしても彼らは本当に器用に右手だけでナンをちぎり、熱さもものともせず カレーをつけて食べていたのはまったく感心した。 コック達とは「雇われてる者どうし」という連帯感を少なくとも私は持っていた。 日本で労働して収入を得ていれば外国人も税金は払うのだが、彼らは「扶養家族9人」とかそういう連中で勿論免税だ。 綺麗な奥さんの写真を見せてくれたり、何人目かの子供が生まれたと教えてくれた。リンゴにスパイスをかけてくれた。オーナーの留守に小腹が空くと、彼らは つまみ食いをしたりもしたが、それをお裾分けしてくれたり、私が誕生日だと言うとカバブを焼いてくれた。 閉店後、店のカレーとナンとサフランライスで夜食(夕食)なのだが、私は時間が遅いので食べずにお持ち帰りすることが多かったが、 時に彼らは自分の分から取り分けて、私に食べるよう勧めてくれたりした。 私の見た限りインド人はおおらかな人達のように思う。 何億の人口、一つの家庭も大家族、そこにまた一人増えるくらいどってことない、 とでも思っているのか。 不本意ながら妊娠を機にこのバイトは辞めることになったが、たまに近くに行くと カレーを食べに寄っている。 ジャンル別一覧
人気のクチコミテーマ
|