第六章 黍団子の力第6章 黍団子の力桃太郎は考えた。鬼ヶ島へ行くことになったはいいが、肝心の場所を知らない。やはり、ランとやらの女の伝言通り、南の波止場へ行くべきか。でも、そもそも、親父がどうして知っているのかやっぱり納得がいかない。それに、本当に本人からの伝言か?これは罠かもしれない。ここは慎重に・・・と頭の中で言いつつ、結局足は南の波止場へと向かっていた。桃太郎の顔を朝日が照らしている。 「あ。海が見えてきた。ん?なんか人影が・・・見えるような見えないような?・・・ウワッ!!」 桃太郎は足元に突然フワフワしたものが触れて、びっくりして跳び上がった。見ると、世にも真っ黒な・・・何? 「ワン!ワン!ワン!」 「あぁ、なんだ犬か。さあ、先へ進もうっと」 「ワン!ワン!ワン!」 「しつこいな~。どけって!」 「ワン!ワン!ワン!」 「うるさい!これでもくらえ!」 桃太郎はきびだんごを犬へ向かって投げつけた。エサに夢中になっている間に逃げてしまおう作戦である。首領が作ってくれた大事な団子をこんなことに使っていいのか?とにかく桃太郎は夢中で逃げた。真っ黒な犬から。桃太郎は走りながら、必死で犬から逃げているという事実が情けなくなってきた。これでは桃太郎の名がすたると思った。そこで、走るのをやめて、振り向いてみた。 「おお~い!待ってくだされ~!」 見ると真っ白な犬が、人間の言葉を喋りながら桃太郎の方へ向かって来る。桃太郎は冷静を装う余裕もなかった。 「はぁ。はぁ。あぁ、やっと追いついた」 「・・・まさか・・・、さっきの黒い犬?」 「そうでございます!わたくしは黒いことに劣等感を抱いていたのですが、貴方様のくださった団子を食べましたらみるみるうちに白くなったのでございます!これは是非お礼を言わねばと!!そして声を出したら人間の言葉が話せたのでございます!!」 「ええ?きびだんごの力って一体!?」 「まことに有り難うございます!貴方様のお名前は?」 「桃太郎だけど・・・」 「桃太郎様!良いお名前!旅の途中でございますか!?では、わたくしもお供致します!」 「ええ~?いいよ、そんなことしなくて」 「そんなわけにはまいりません!桃太郎様がなんと言おうとついていきます!!」 こうしてめでたく(?)きびだんごのおかげで犬が仲間に加わった。そして、桃太郎と犬は南の波止場に着いた。船が一艘だけある。これがランの言っていた船だろうか。桃太郎はその船に一歩足を踏み入れた。その瞬間!空から網がバッサァ~と降って来た。網にからまって暴れる桃太郎。その様子を平然と見つめる犬。 「ふふふ。桃太郎君、約束通り来てくれたのね」 肩に茶色の手乗りザルを乗せたランが姿を現した。桃太郎の目に真っ先に映ったのは、緑の髪に赤い飾りのかんざし。まさしく、あの時桃太郎が持っていたかんざしである。 「やっぱり、あんたがそのかんざしを・・・!」 「どう、似合うでしょう?」 「ウッキー!」 突然ランの猿が桃太郎の体の上に飛び掛って来た。桃太郎はますます網に、からまるからまる。暴れる桃太郎。そして平然と見つめる犬。 「ウキー!」 「あっ。勝手に食べるな!」 猿は桃太郎の腰にぶら下げていた袋に飛び付き、中に入れてあったきびだんごにかぶりついた。桃太郎は、まだ自分が一口も食べてないきびだんごの行く末を案じた。 第6章 完 第七章へつづく ジャンル別一覧
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