卒論 おわりに今回、「動物と人間」、「犯罪で人間」、「神様を人間」、「伊坂の世界」の四つのテーマを掲げて伊坂幸太郎の世界を考察してきたが、伊坂作品の魅力は、本論文の枚数で十分に語り尽くしたとは言えない。時間さえあれば原稿用紙にあと千枚は確実に書ける。本稿はそのダイジェスト版だと思って欲しい。伊坂幸太郎は進化し続けている。奇想天外な発想力を高い位置でキープしたまま、表現力は作品数を重ねるほど洗練され、作品間のリンクの数はどんどん増えている。一度単行本として刊行された作品も、数年後文庫本になる時には大幅に改稿され、やや違った印象の作品に新しく生まれ変わっている。作品内容も今までは「ライト・リアル」と「ダーク・ファンタジー」に二分されていたが、今後、ガラリと作風が変わる可能性だってある。いずれこの「伊坂幸太郎 論」も、何十年後かには「伊坂幸太郎 -初期- 論」と題名を改めなくてはならなくなるだろう。 伊坂作品について今後研究していきたい事項を、以下に挙げておく。 ・ 構成の特徴 (時系列のズレ・複数の視点・リンクの効果、伏線・謎解きのパターン) ・ 文章の特徴 (会話文、引用文、冒頭文、題名、目次、文庫版への改稿のこだわり) ・ 登場人物の特徴 (主人公、障害者、芸術家、超能力者、家族、兄弟、名前、モデル) ・ 教材化の可能性 (四字熟語・ことわざ・比喩表現の多用、過去の問題集・試験問題化) ・ キーワードの考察 (遺伝子、警察、音楽、映画、携帯電話、空、嘘、仙台と東京、 裏切りと許し、狂気と受容、思考と想像、孤独と連帯) また、付録の「伊坂幸太郎 年譜」も完璧なものではない。新聞・週刊誌・月刊誌・ネット上に掲載されたインタビュー記事は、全てを自分が把握し切れていない上、発行年月日を確認できていないものが多いため、今回は年譜に掲載することができなかった。他の人が書いた伊坂作品についての書評も、同様の理由で年譜に掲載できていない。今後調べて、年譜に追記していきたいと思う。 人の書いた作品に対して「作者の伝えたいことは全て分かった」なんて気でいるのは傲慢だし、それは実際、おそらくどんな有名な書評家でも無理なことだと思う。それでも、伊坂幸太郎作品を愛する読者の一人として、私が「このように伊坂作品を受け止めた」ということを論文に表したのは、意味の無いことではないだろう。この論文が、伊坂幸太郎研究の先駆けとなれば良いと思う。私もこの論文をスタートとして、今後も伊坂幸太郎の世界を追究し続けていきたい。 |