花束【花束】先日、妻が誕生日を迎えた。 その日、俺はカメラマンとして豊田市の中古車オークション会場で 車の写真を撮っていたのだが、撮影中ふと「そうだ、花束でも買って帰ろう」と なんとも俺らしくない、全く笑っちゃうような発想が頭をよぎったのである。 しかしその日はよりによって撮影すべき車がどんどん入荷してきて非常に忙しく、 朝から1900枚もの写真を撮って撮影が終わったのが夜7時だった。 俺は今まで女性に花束を贈ったという記憶はない。 そんなキザなことはできるわけないのだが、思い立ったら即行動するのが俺である。 帰り道の店で青、黄色、ピンクの花を選んで買って家路へと車を走らせた。 車内に置いた花束にダメージを与えないように慎重に、けれども早く帰ろうと 直線道路でスピードを出していたら前には1台の車が走っていた。 その車が左折しようとしたのでそれを避ける格好で俺の車は対向車線をまたいだ。 すると対向車線からは無灯火の軽自動車が走って来ていたのである。 急ブレーキをかけてハンドルを切って正面衝突は免れたのだが、 心臓のバクバクとは裏腹になぜか「うふふ」と笑いがこみ上げて来たのだった。 「慣れないことをするもんだから」という思いと「あのまま死ねたら」という思い。 もし正面衝突していたら約1時間後には警察から自宅に電話が入るだろう。 家族の誕生日に事故死という最低最悪の死に方。 そしてお通夜と葬式があっという間に淡々と終わった後に事故車両の引き取り処理。 そこで初めて、大破した車内で俺が初めて買った花束を見つけて妻は泣き崩れる。 もちろん花はもう青や黄色、ピンクではない。枯れている。 その花束の意味を知り、妻は愛されていたということを悟るのだ。 「バカね、慣れないことをするもんだから・・・」 (筆者注:事故の賠償責任という現実的な問題は考慮しておりません) 俺は太宰治が大好きで何度も同じ作品を読む。 彼の作品に「フォスフォレッスセンス」という変わった題名の短編がある。 その「フォスフォ・・・」というのは花の名前だ。 どんな花なのかは読者の皆さんが各自調べてみて戴きたい。 ネットで検索すれば必ず見つかるはずである。 しかし花辞典や、花に詳しい人に訊いても絶対に見つからない。 フォスフォレッスセンスとはそういう花なのだ。 そして俺は、いや、全ての男は女性に花を贈る時、バラやカーネーションというような 具現の花をイメージするのではなく、甘く切なく究極の美しさを持った花 「フォスフォレッスセンス」のように天界にだけ咲くような花を捜し求めているのだ。 (下記リンク先で太宰治のフォスフォ・・・が読めます。5分ほどで読める短編です) ⇒フォスフォレッスセンス ![]() ジャンル別一覧
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