裏方バイト

　　　　【裏方バイト】

20代の頃に劇団四季の裏方バイトをしたことが何度かある。
公演会場に行って大型パネルバンから降ろされる機材を会場に運ぶ。
会場の裏口にある荷物搬入口という場所にトラックが停められ、
大道具・小道具・照明機材・音響機材などを運び込むのだが
ミキサーなんてメチャ重いのである。
それを楽屋口通路やステージ横を通って客席後方まで運ぶんだが、
客席にある階段を上がるのが一苦労なのだ。
音響機材に付随する配線も膨大な巻き量がある。
それから大道具。舞台の背景となる巨大な張りぼてのことだ。
これも舞台で使用される順番に予めステージ横に仮置きしておく。

そうやってセッティングをしているうちに俳優さん達が続々到着。
俺達がステージ上で作業をしている前でマイクテストや照明チェックが始まり、
段々と本番に向かってのボルテージが上がっていく。

彼ら俳優さんやミュージシャンはまるで別世界の人のようだが、
実際に舞台裏で見ると俺達一般人と何の変わりもない。
一緒になって機材の搬入もするし会話も普通である。
入場開始で徐々に客席が埋まっていく様子を舞台の幕の隙間から心配そうに見ていたり、
台本を持って自分のセリフを確認していたりで微笑ましい。

公演が始まってしまえば裏方バイトは比較的のんびりできる。
舞台の切り替えで暗転した時に真っ暗なステージに行って大道具の交換程度だ。
舞台が終われば午前中にセットしたのと逆の順で各機材や道具の片付け。
次の公演地に向けてトラックに荷物が載せられていく。
トラックや俳優さん達のワゴンを見送った後は妙な充実感がある。
まるで俺達が舞台を成功させたかのような錯覚に陥ることもある。

「裏方」というと舞台裏での作業を指すことが多いが、
舞台俳優やミュージシャンだって陰で発声練習や演奏練習をしている。
俺は「全ての仕事は裏方である」と思っている。
ライン作業で車の部品を作るのも裏方、とび職さんが足場を組む作業も裏方、
議員さんや市長さんが会議で物事を決めていくのも裏方、
リバ編集部が記事を打ち込んだり校正しているのも裏方、そう思っている。
俺は週5日は商業カメラマンの仕事をしているが、これも裏方作業だ。
見えないエンドユーザーのために1枚1枚ベストショットを心掛けている。
裏方は誰のための裏方なのか？
最終的なエンドユーザーである「あなた」のためなのだ。
舞台やステージを観に来てくれるあなたのために、車を買ってくれるあなたのために、
みんながそうやって誰かのために作業をしている。
それが社会というものだ、というのを理解でき始めたのは最近のことだ。

さて、上記劇団関連との繋がりは未だに続いていて、来月7月8日（日）には
劇団四季を退職して今は独立して舞台をやっている三遊亭究斗さんの
ステージカメラマンをやってくれ、と主催者から依頼があった。
これは3年前から毎年お呼びがかかっている。
刈谷市総合文化センターでの舞台なのでファンの人はぜひ。
黒い服を着て客席やステージ横でこそこそ写真を撮るのだが
決して隠し撮りしてる一般客ではないので変な目で見ないでね。