最近は碧南市の実家に行くことが多い。
独り住まいの高齢の親父がフジの蔓を切ってくれ、とか
玄関の引き戸の開閉が悪いから油を点してくれ、とか
蛍光灯の電球が切れたので換えてくれ、とか
数年前までは自分でやれていたことがもう出来ない。
そういう些細な用事で実家に行くのである。
先日も一連の至極簡単な作業を終えた後、
汗を少し掻いたので門の外に出て風に当たっていた。
半世紀以上前は料亭だったという座敷の外壁を見て
ああ、随分と朽ちているなあ、と感じた。
あと数年でこの家は壊すことになるだろう。
座敷の外壁を眺めていたら昔からある看板に目が行った。
子供の頃から存在は知っていた看板だったが
今回はタバコを吸いながらまじまじと読んでみた。
「新須磨海岸 内湯旅館 だい忠」
新須磨海岸なんてものはとっくの昔に無くなっている。
今ではコンクリートの堤防があるだけだ。
あっ!こ、ここは!
マツダで働いていた時、自分で輸入雑貨の店を開こうと思って
親子でバリ島にしばらく行こうと会社を辞めたのだが
その時に部長と課長が僕達夫婦を会席料理に誘ってくれた。
その場所がこの「だい忠」だったのだ。
30年間忘れていた記憶が鮮明に蘇った。
そのきっかけがまさか実家の座敷の外壁の看板だったとは。
人生って何かが何処かで繋がっているんだなあ。