「紙の動物園」ケン・リュウ
以前買ったこの本をやっと読む気になった。何も知識はなくて、ただ薦められて買ってあった短編集。最初の『紙の動物園』これはとても短い話。ちょっととまどった・・・というのも、ケン・リュウの作品がSFだと知らずに読んだので・・・心に響く物語で、日本人でも反抗期などを越えた人ならなんとなく理解できるであろう、親との確執。私も時々日記に書くけれど、母親は、どうして学ばないのだろう?ってイラつく事がまだまだある。特に私には勉強であれ容姿であれ総てに否定的で、どんなに成果を上げても決して認めず、もっと努力しろと言い続けた母親は、自分ではろくに字もかけない。母の父が幼い時亡くなり、その直後に戦争だったせいなのだが、大人になってからは充分字を学ぶ機会はあったはずだ。だって、日本は高度成長期だったし、私が前年に使ってた教科書を使えば良かったはずなのだ。でも、自分が勉強できなかった環境ばかりをふりかざし、結局字をいつも小学生の私に書かせていた母。この作品の主人公の少年の母は、カタログで選ばれて、アメリカ人の父に購入された女性だった。英語堪能とカタログには書かれていたが、父親が初めて面会した時から英語はしゃべれず、ウエイトレスにお金を払って通訳してもらい話をした。しかし、父親は気にせず彼女と結婚した。が、どういう理由かわからないが、少年の周囲の人は皆母がカタログで買われた事を知っているらしく、そのことで居たたまれない少年。なぜ自分をカタログで売ったのか?アメリカに来て何年経っても英語を覚えようとしない母に、怒りを押さえられなくなっていく。その筋書きとともに、幼い時に母が包装紙のオリガミで折ってくれた虎の大きな存在があった。母の折ってくれた動物たちは、まるで生きているかのように生き生きと描かれている。少年は動物達と遊び、心の支えとして成長したのだが・・・・短編だけれど、含む物語はとても大きい気がした。親子の物語であり、ファンタジーなのかな?と私は理解したけれど、SF作品だったんだな。なるほど。この文庫本の中で特にSFとして印象的だったのは、「太平洋横断海底トンネル小史」という作品だった。台湾、東京、アメリカを横断する海底トンネル!!地熱を利用した発電でコストが非常に安く済むし、天候に左右されない交通手段だが、当然それを造る工事は困難を極めたはずで、主人公は一緒に仕事をしていた仲間が事故や自殺で亡くなっていく中の数少ない生き残りである。その工事を世界に提案したのは、ナント裕仁昭和天皇だという発想に驚いた。そしてその結果・・・実に印象的なSF作品だったった。どの作品も、中国・台湾・香港、そして日本とアメリカが舞台であり、日本からしか眺められずにいた私にも、違う角度からの歴史を感じる事ができた。そして、中国や台湾にとっても、アメリカはとても近しく、重要で、あこがれで、余りに大きな力を持つ密接な国だということを。紙の動物園は、中華のルーツとアジアの土台を強く感じる作品が多いけど、次の文庫「もののあはれ」はもっとSF色が濃いそうなので、次々読んでみたい作家さんです。紙の動物園 (ハヤカワ文庫SF ケン・リュウ短篇傑作集 0) [ ケン・リュウ ]もののあはれ (ハヤカワ文庫SF ケン・リュウ短篇傑作集 0) [ ケン・リュウ ]母の記憶に (ハヤカワ文庫SF ケン・リュウ短篇傑作集 3) [ ケン・リュウ ]