怪しい客、あらはる。
店員が話しかけても無視する客というのは少なからずいる。「いかがですか~~、よろしければ・・」と話しかけたんだからせめて「あ、大丈夫です」くらい言ってくれればいいのに、まったく聞こえないフリで無視して商品を見たり、夫婦で話をしたりしている(特に夫婦両方に無視されたら本当に悔しい)。今日の客もその一人だった。 黒いシャツに黒いズボン、一見目立たないが季節はずれにマスクをしているとなんだか奇妙で目立っている客がいた。別の店員が話しかけていたがまったく無視。「あぁ、またあぁいうタイプの客か・・・」とあたらず触らずで傍観していた。デジタルカメラコーナーでカメラの整理をしていたら、後ろから「FUJIFILM F30, ○○○○円・・・・ Z2, ○○○○円・・・・ぼそぼそぼそ」という声が聞こえてきた。さっきの無視男だ。俺は心中「どうやら携帯電話で彼女か誰かと値段の確認をしてるんじゃないか」と思っていた。まるで、クイズミリオネアの「テレフォン」のように組織ぐるみで最安値というファイナルアンサーを探しまわる客も少なくない。近づいてきたので、ぱっとカメラコーナーから2,3歩下がろうとしたとき、その男が携帯電話などもっていないことにようやく気づいた。マスクの中で口をぼそぼそと動かし、すべての商品の型番と値段を言い続けている。「す・べ・て」である。デジタルカメラの次は、デジタルオーディオプレーヤー、そのあと、プリンタ、パソコンと物色するように店内を歩き回ること10分以上。明らかに買い物客ではないし、何かを買うそぶりがない。 あやしい。明らかに怪しい。 「○○社員~~変な客いますよ~~」気軽に話したのもつかの間、店内は社員によって厳戒態勢になり、上司の多くがその男を監視する体制に入った。どこかの店か何かの回し者、プロの価格調査屋じゃないか、という憶測が飛び交ったのだ。騒がしい店内、ほかの客はまったく気づかずに楽しいお買い物、店員は厳しい顔で怪しい客を見張っていく。うほー!なんかおもしろいと興奮気味に俺は彼のあとをついていくことにした。 店内を見回したあと、店員から見えない階段に降りた瞬間、すぐにマスクをはずした彼。ポケットから何かをおもむろに出すが見えない・・・。そんなにマスクをすぐはずすのもおかしい。やっぱりあのマスクは何かのカモフラージュだったんだ!! いるんだね~こういう人って!!!