2009/06/29(月)00:22
『 難度海 』。
義母の付き添いで総合病院へ。
採血の部屋で義母と順番を待つ。
1度に4人採血できるデスクに次から次へと名前を呼ばれていく風景は、
ここに来る誰もが見慣れた風景で、ことさら互いに注意を払うこともない。
だが、突然、
「 はいっ 」 という凛としたお声とともに、
車椅子の御方が進まれたとき、
そこにいた全員が 何気にその御方をみたのだった。
車椅子に乗ってはおられても、すっと背筋から首筋が伸びておられ、
髪は真っ白でいらっしゃるも、お顔は活き活きとしておられ、
とても身奇麗にされている。
むしろ、車椅子を押しておられる御方の方が、疲れたお姿なのが気にかかる。
「 お名前を教えていただけますか 」
「 生年月日をおっしゃって下さい 」
看護師さんの声に、きびきび応えられ、
「 まぁ、百歳におなりですか?
明治生まれの御方は久しぶりですぅ 」
トーンの上がる看護師さんのお声に、皆がどよめく。
「 ごめんなさいね~。 今日は4本採らせて下さいねー 」
4本の採血を終え、退室されるとき、
まるで、その御方は、皆の視線を集めたことを意識しておられるかのように、
胸をはって、口元に笑みを浮かべておられたのであった。
義母は感じ入ったようで、
凄いのぅ、凄いのぅ。
どっこも悪そうにないのぅ。
わしも後16年、頑張れるかのぅ。
帰宅するまで、その繰り返し。
私はといへば。
す っとそこに在っていらっしゃった御方に敬意を覚えつつも、
ヘルパーさんには見えなかったあの御方は、
娘さん、であろうか、 お嫁さん、であろうか、と、
少なくとも私より12~3歳は上でいらっしゃるやうにみえた、
車椅子を押しておられた御方のことが 気になって。
夫れ浮生なる相をつらつら観ずるに、
凡そはかなきものは、この世の始中終、
幻の如くなる一期なり。
されば、いまだ万歳の人身を受けたりということをきかず。
一生過ぎやすし。
今にいたりて、誰か百年の形体をたもつべきや。
我や先、人や先、今日とも知らず、明日とも知らず、
遅れ先だつ人は、もとの雫、末の露よりもしげしといえり。
蓮如上人 『 白骨の章 』 前半