知的漫遊紀行

2006/10/09(月)16:21

ダヴィンチコードと日本語訳:その3

読書感想(181)

A氏:この2日ほどで一挙に読み終えたよ。  順次、疑問点を聞いていきたい。  41章の最後に「これからどこへ向うつもりですか」という質問があり、「場所でなく魂について問われているのだろう」とあるが、これがピンとこないね。 私:質問のほうは英語ではWhere will go from here? で、後のほうの英語はAringarosa sensed the query was more spiritual than geographical, だね。 「心がどこに向う」のかということが「魂spirit」についての意味となっている。  実は103章で同じ質問をアリンガローサが受けるが、そのときも精神的な意味だね。  「これからどうするのか」というような意味だね  キリスト教文学の名著にシェンケヴィッチの「クオ・バディス」がある。  古い本で俺は高校生ぐらいの頃に読んだことがあるね。  使徒ペトロが弟子を捨てローマのキリスト教弾圧を逃れていくと、丘の上で天上をキリストが走っていく幻を見る。  ペトロは「主よ、いずこにいかれるのですか(クオ・バディス)」という。  キリストは「お前が弟子を置いて逃げるので、私がまた十字架にかけられるに行くのだ」という。  そこでペトロははっと目が覚め、もと来た道を引き返すという話だね。  大きな人生の分岐点を意味する言葉だね。  映画にもなった名作だが、この「クオ・バディスQuo Vadis」(ラテン語)という言葉には「お前はこれからどこへいこうとするのか」と いうキリスト教では深い精神的な意味があるんだね。 A氏:42章。  銀行のところで第二のカギを差して第二の門を開けていく。  そこで「矛盾したメッセージだな、とラングドンは思った。歓迎と拒絶が同居している。」とあるがこの流れがよく分からない。 私:英語はTalk about mixed messages, Langdon thought. Welcome and keep out.  イタリックスになっているね。  君の質問は英語のイタリックスの部分が多いね。  これは背景に赤い絨毯と硬い金属製の扉があるね。    Talkはこれらの赤い絨毯と硬い金属製の扉メッセージが語りかけるものではないのかね。  赤い絨毯は歓迎を、硬い金属製の扉は拒絶をミックスしたメッセージを語っているということだろうね。 A氏:車を降りて金庫に向けて歩いていくと、守衛がいる。  この描写で「隆々たる体躯や目立つ上腕に似合わず」とあるが、なんで「上腕が目立つ」のだろうね。  腕まくりでもしているのかね。 私:英語はhis enormous muscle and visible sidearmだね。  sidearmが問題なんだね。  これには上腕という意味はないのではないの?  armだけでは腕全体を指すからね。  sidearmは形容詞的には野球のサイドスローの意味があるが、名詞では携帯用ピストルという意味があるね。  貴重品倉庫の守衛だからvisible sidearmは守衛用の携帯ピストルが見えるという意味だろうね。 A氏:さて79章。  最初の「戦地ロンドン」がひっかかった。ロンドンが戦時下なの? 私:英語はLondon where the action wasだね。  the action がどういう意味かだね。  前後の関係から捜査の中心は今ロンドンに移っていることを意味しているね。 A氏:その後、「でたらめの証拠の山」とあるが、「でたらめ」が気になるね。 私:これも英語はイタリックスだね。  Good luck making sense of this unlikely mélange.  thisがあるから事件現場にあったベルトとその前のニュース番組のニュースとの関係を問題にしているのだろうね。  unlikely は「ありそうもない」という意味だし、 mélangeは、「ごたまぜ」という意味だ。 「ありそうもない」は「でたらめ」というより、「つながりがなさそうな」という意味だろう。 A氏:この章の最後のほう。 「ファーシュに連絡すべきだと本能が告げている。だが感情は―――」とあるが、本能だって感情の一つと言えるのではないの? 私:英語は、instinctivelyとemotionallyだから、そのままの訳だね。  意訳すれば、「職業的本能」と「個人的な感情」と考えたらどうだね。 A氏: 92章だが、キングスカレッジの宗教図書館にいくと初対面のはずの司書がラングドンの名前を言うね。  そこで、「もし、地球上にひとりだけラングドンの顔を識別できる人間がいるとしたら、それは宗教学の参考資料館の司書に違いない。」とあるが、そこまで言い切れるかね。 私:その前に「思いがけない相手に顔を知られている」の部分に訳していないが英語ではcelebrityとあるから、「一般の人に有名なこと」がからんでいるね。  すでに、容疑者として顔をテレビ放送されているね。  だから「テレビ放送以外で顔を知られているほど有名だとすると」ということになる。  それから、英語ではit would be a librarianとwouldだから、「違いない」というより、「だろう」ではないかね。 A氏:103章でリーのことをアリンガローサが思い出している。 そこに「盲人はおのれの見たいものを見る」とあるが、どうも意味がピンと来ないんだ。 私:これも英語はイタリックスだね。  The blind see what they want to see.  意訳すると「先が読めない人ほど、無理をしてほしいものを手に入れようとする」かね。 A氏:104章の礼拝堂を最後の見学者が案内されている。 「館内にある六つの重要な点をつなぐ、目に見えない通路――に沿って案内し」とあるが「目に見えない通路」というのがあるのかね? 私:英語はan invisible pathway だね。 まぁ、意訳すれば、「六つの重要な点を順次」ということになるかね。 A氏:いよいよ、最後の2,3行のところの重要な文だ。  “聖杯の探求の目的は、マグダラのマリアの遺骨の前でひざまずくことだ。貶められ、失われた聖なる女性に心からの祈りを捧げるために、旅を続けたのだよ”    この「旅を続けたのだよ」がどうもしっくりこないんだね。  誰が旅をしたの? 私:英語はこれもイタリックスで長い。  The quest for the Holy Grail is the quest to kneel before the bones of Mary Magdalene. A journey to pray at the feet of the outcast one.  to kneel は「――のため」の不定詞ではないかね。  journeyはaがついているから一般的な意味だね。  だから意訳すると  「聖杯の探求は、マグダラのマリアの遺骨の前でひざまずくための探求である。それは、あの追放された人(マグダラのマリア)の足元で祈りをするための旅である」  となるね。 A氏:最後にすっきりした。  それで、最後の場所でラングドンはひざまづいたのか。  聖杯探求の彼の旅の終わりとして―――。 私:君の聖杯探求の旅も終わったから、祈るべきかもね。  おかげで俺も、もう一度、一緒の旅をさせてもらったよ。 A氏:最後の結末はミスティリーとしてはちょっと物足りない感じだったが、キリスト教の壮大な裏面史がよく理解できたね。    それにしても、この小説でキリスト教でもキリストの血統を問題にする話は、日本の天皇の権威が万世一系の男系の血筋を尊重するのと似ているなと思ったね。

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