知的漫遊紀行

2007/12/08(土)13:56

「アジアに接近するロシア・その実態と意味」木村汎・袴田茂樹編著・07年4月北海道大学出版会刊

社会問題(551)

                            私:この本はプーチン以来のロシアの大国的な動きについての知的街道に位置づけられる本だね。  「ロシア世界を読む」、「プーチンは"皇帝"になるか」、「プーチン圧勝」と続いてきたね。  この本は、専門家の研究グループが研究した結果を12名のメンバーがそれぞれ分担して提出した論文をまとめたものだね。  プーチン政権は2000年に発足するが、2001年に9.11事件が発生。   国際テロという共通の敵を前にアメリカとの親密な関係構築に乗り出す。  中央アジア諸国への米軍駐留の容認をして、プーチンはブッシュ大統領との個人的信頼関係を確立するね。A氏:それなのに、それが何故、崩壊していくのかね。私:アメリカはロシアを対等の相手とみなさなかったのが原因で、ロシア国内ではプーチンの屈辱的な外交とみなされたし、中央アジアへの米軍基地の容認は中国との関係も悪化した。   メンツを潰されたプーチンは2002年以降、対米政策の軌道を修正する。  2003年のイラク戦争には国際法、国連憲章に違反する暴挙と批判する。  一方、エネルギーの国際価格の上昇がロシアの国際的な比重を大きく変え、ロシア人の自信回復と大国主義の復活へとつながる。   すなわち、03年のイラク戦争から05年にかけてロシアと西側の間には不信感が一気に強まる。A氏:西側はロシアの民主的な改革が進んでいないことや腐敗、汚職構造や利権争奪のために投資が効果的でないこと、エネルギーの利益が国内の生産に投資されていないなどで不信感をもっているね。私:一方、ロシア側としては、西側がロシアを大国として扱わないことや、欧米的な民主主義をロシアやロシアの周辺諸国に押し付けること、NATOは解消されず、アメリカは今ではイランのミサイル対策として迎撃ミサイルをロシア周辺諸国に配置をしようとしている。  そして、近年、中国経済が大きく発展した。   対外路線をめぐる欧米との対立に反比例して、ロシアと中国は近年急速に接近しているという。A氏:ロシアと中国は同じ大陸にあるので、石油や天然ガスはパイプで送ることができるので効果的ではないのかね。私:ロシアも中国に安定したエネルギーを売ることができる。  しかし、パイプラインの設置はなかなか進んでいないようだね。  基本的に中国は、エネルギーは欲しいが、あまりロシアに依存したくはない。  ロシアに弱みを握られるからだね。A氏:ロシアは、ウクライナが親米化したとき、一時、天然ガス供給をストップしようとしたね。  そういう信用できない大国的な無法行動をするからね。私:日本との関係では、プーチンは日本企業をロシア市場へ進出させることには熱心であるという。  2005年6月にサンクトペテルブルク郊外にトヨタが工場進出を決定したとき、プーチン大統領はその起工式に自ら駆けつける熱意を示したという。   しかし、ロシアは外国からの進出企業がロシア市場で業績を上げると、ロシア側のパートナーや企業から買収オファーをもちかけられる。  断わると有形無形の嫌がらせにあって、なにかと税金をかけられ、撤退せざるを得なくなるというから、これからは分からないね。A氏:北方領土問題はどうなるかね。私:プーチン大統領は北方四島の主権については議論するつもりは全くないと述べているというね。   この本では、プーチンの対日政策の「行動様式」を4点あげているね。    第一は「言動不一致」    第二は「首尾一貫性の欠如」    第三は「理屈よりも力の尊重」    第四は「翼賛型の政策施行キャンペーン」A氏:要するにやりたい放題ということかね。私:プーチンは欧米世界との統合を欲する。  他方でロシアの特殊的な地位に固執する。  その矛盾は同政権の一般的な性格だね。  それが対日政策にも現れているということかもしれないね。  この本は、細かい分析が多いが、一言で言えば、まだ、ロシアの動きは不安定で、今後の動きには目が離せないとうことだね。

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