知的漫遊紀行

2017/02/05(日)13:59

岡本雅享〈著〉『出雲を原郷とする人たち』 評・原武史(放送大学教授・政治思想史)・

私:来週土曜日は2月11日は「建国記念の日」だね。 実は、2月11日は俺の誕生日なんだ。  俺たちの子供の頃は「紀元節」といって、神武天皇が日本国を作った日と教えられたね。  たしか、紀元2千6百年(1940)という国をあげての記念行事があって、歌まで作られ、今でも覚えているよ。  そうすると、今年は、紀元2677年だね。。   A氏:ところで、こないだ、「明治の日推進協議会」というところで、稲田朋美防衛相が、 「神武天皇の偉業に立ち戻り、日本のよき伝統を守りながら改革を進めるのが明治維新の精神だった。その精神を取り戻すべく、心を一つに頑張りたい」と発言したというニュースをネットで見たね。  神武天皇は神話上の人物なのを知らないらしい。 神武天皇の戦いで有名なのは「金鵄」と「八咫烏」だね。 稲田大臣はこの神話も信じているのだろうかね。   私:ところで、今週の朝日新聞の「日曜書評」では、神武天皇に関連して、岡本雅享〈著〉『出雲を原郷とする人たち』に興味を持ったね。  東京の明治神宮の祭神が明治天皇と昭憲皇太后であり、大正時代に建てられた新しい神社だと知っている参詣者は多くないだろうという。  明治神宮は、アマテラスをまつる伊勢神宮を頂点とする国家神道が確立されるなかで、天皇を祭神とする「伊勢系」の神社の一つとしてつくられたという。   A氏:神社には「伊勢系」と「出雲系」があるんだね。   私:だが、東京が属する武蔵国で最も古いとされる神社は、埼玉県大宮にある氷川神社だが、これは「出雲系」で、埼玉県と東京都を中心に284社もある。 加えて埼玉県には、「出雲」の名の付く神社や「出雲系」とされる横穴墓まであり、それはかつて「出雲の氏族」が武蔵国へと大量に移動したことを暗示しているという。 武蔵国だけではなく、本書は、北は東北から南は九州にかけて、「出雲系」の神社や地名、伝説が分布していることを、度重なる取材を通して明らかにしているという。   A氏:筑前国のように、朝鮮半島に出兵したとされる神功皇后にちなむ神社や地名、伝説が濃密に残っている地域もあるので、「出雲系」だけを特権化して語ることには注意が必要にせよ、かつて出雲の氏族が全国的に住み、独自の文化を築いていたのではないかという想像をかき立てられるね。   A氏:そこから明治政府は、神武天皇を初代天皇として押し出すことで神功皇后を封じようとしたように、「伊勢系」を押し出すことで「出雲系」を封じようとしたのではなかったかと考えられるね。   私:そして戦後は、明治から敗戦までの神道がすべて国家神道として批判の対象になったために、「出雲系」も忘却されてしまったのではないかという。 柳田國男をはじめとする民俗学者も、本書で記されたような神道と民俗学の接点に当たる問題を正面から論じようとはしなかったが、出雲出身の著者の執念が、初めてこの空白に大きな光を当てたと評者は指摘しているね。  読んでみようかと思う。  

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