知的漫遊紀行

2017/11/09(木)21:07

「中国の夢と足元」京都府立大教授・岡本隆司氏、東大社会科学研究所准教授・伊藤亜聖氏、漫画エッセイスト・林竹女史・8日朝日新聞「耕論」欄

私:この欄は3人へのインタビューよりなる。  岡本教授は中国の清朝を中心に近世、近代史を研究しているが、そんな歴史家の目で見ると、「透ける歴代王朝の世界観」として体制が変わっても一貫している中国の論理が見えてくるという。 共産党大会で、3時間半もの演説、「独演会」を挙行した習氏は、中国政治の王道を歩んでいるように見えるという。   A氏:経済発展で力をつけると、覇権主義が頭をもたげてくる。   それは、領土をめぐる一方的主張と「周辺国は頭を下げて当然」という大国意識、俗に言う「上から目線」で、中華が常に上位で、周辺国の「夷(い)」が「礼」をもって事(つか)える華夷(かい)秩序という歴代王朝の世界観が見えてくるという。   私:逆に、今年4月から中国・深センの深セン大学でベンチャー企業の研究をしている伊藤教授は「起業続々、今やIT先進国」として、中国の大きな変化にふれている。    中国はベンチャー企業の企業価値や投資額で米国に次ぐ、世界第2位。  特に住民の平均年齢が30代前半という深センでは、若者が次々に起業。    実際に起業しやすい環境も大きく、売れるかどうかわからない製品でも、爆発的ヒットを期待してファンドや投資家が積極的に投資する。   A氏:伊藤教授が訪問した企業もスマートフォン、ドローン、仮想現実(VR)、ゲノム解析、ITセキュリティー技術、人工知能(AI)など分野は様々。   経営者は1980年代、90年代生まれも多く、世界市場を目指していて、技術の発展や変化のスピードはものすごく速く、常に情報を更新しないと置いていかれてしまう。   私:日本人の中には、中国に対して「貧しい」「パクり」といった印象が根強くあるかもしれないが、今もそうした部分はあるにせよ、安い人件費を売りに2ケタ成長したのは今や昔の話で、深セン発の企業、DJIはドローンで世界一となり、スマホのファーウェイ社は根幹の半導体部品を自社で開発できる高い技術力がある。  国際特許申請の数も、今年中国が日本を抜くとみられる。   A氏:政策の後押しもあるり、税制優遇や財政支援などで起業を支援。  世界の潮流はデジタル化で、「GAFA(米グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれるIT企業の巨人に対抗できるのは、数億人単位のユーザーを抱える騰訊(テンセント)や阿里巴巴(アリババ)といった中国企業。  ある領域では中国企業が世界でも先駆的な取り組みをする時代になったと言えるという。   私:林竹(リン・チュー)女史は中国人で、東京学芸大学院に留学。 イラストに文章を添える漫画エッセーを書いていて、旅行やグルメ、ファッションの情報を雑誌やネット媒体で発信する仕事。 日本の魅力を伝えたくて、2013年には名所や飲食店を紹介する「林竹闖関西(林竹、関西をゆく)」を出版。   A氏:この仕事は場所を問わず、iPadとWiFi(無線LAN)があればどこでも仕事の発注を受けることができるので、上海に住んでいるが、移動は自由。 今年は雲南省に1カ月、イタリアに1カ月、東京に2カ月、京都に1カ月というふうに、好きな場所で好きな仕事をしているという。  行きたい所に行くという生き方ができることが、中国の変化を表している気がし、収入や条件をクリアしているので、ビザも問題なく出る。   私:彼女は一人っ子世代で、すべてが自分のものという環境で育ち、自己意識が強い世代だが、ありがたいことに親の世代と比べたら、何をやるのもずっと自由になり、才能で食べていくことができるという。  海外からみると、政治に対する見方が気になるようだが、中国の一般の人は政治には関わらない。  共産党員になる人も、たとえば、公務員になったから党員になったほうが仕事にメリットがある、という感じのよう。  ただ、政治的に何が問題になるのか、基準がわからないのは気になり、厳しいネット規制もなんとかしてほしく、表現を仕事にしているのでグーグルもインスタグラムも自由に使いたいという。   A氏:規制の一方で、中国のスマホ社会は世界一だと思うと彼女はいう。  財布を持たずにご飯やタクシー、クリーニングまで何でもそろう。  個人情報が漏れるのが心配で、もしかしてという問題を考えて、立ち止まってしまうのが日本。  中国はとりあえず始めてみて、問題が起こったら対策を考えるという。   私:中国はいい意味でも悪い意味でも刺激がいっぱいで、これ以上おもしろい国はないと思っているという。 中国は何もないところから新しいものを作り始めている国で、みんなものすごく走って走って、躍動している。  「もっといいマンションに住みたい」「旅行していいホテルに泊まりたい」と、中国ではそうした思いが社会の活力になっていて、彼女は中国の欲望に満ちた感じがたまらなく好きだという。   A氏:彼女は、現実を変えるのは政治家や革命家じゃなく、旅行やグルメなど、それほど経済的に恵まれていない人でも確実に手に入れられる小さな幸せを届けたいと思って、発信を続けているという。   私:中国は大国だけに、経済力を背景にその行く先は世界の大勢に多様で大きな影響を与えつつあることがわかるね。

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