知的漫遊紀行

2018/03/10(土)13:02

「緊縮病『失われた10年』 待ちわびる、冬の終焉」ブレイディみかこ氏筆・10日朝日新聞・「欧州季評」欄

私:ブレイディみかこ氏は、保育士・ライターで、96年から英国在住。  現地の生々しい状況を伝えている。    驚いたことに、英国では、2010年に保守党が政権を握って緊縮路線になって以来、路上生活者の数は69%増になり、昨年の総選挙で、メイ首相は22年までにその数を半減させ、27年にはゼロにすると公約。 だが、福祉予算が削られ続け、悪天候の緊急支援すら民間の善意に頼っている状態で、そんなことができるのだろうかと、みかこ氏はいう。   A氏:先月、国会議事堂の最寄り駅である地下鉄のウェストミンスター駅で、路上生活者の遺体が発見され、亡くなったのはポルトガルからの移民だったと判明し、同国のレベロデソウザ大統領はこの事実を「非人道的」と公に批判。   ロンドンでは、年初の6週間だけで4人の路上生活者が亡くなっていて、その1人となったポルトガル人男性は35歳の元モデルだったという。   私:路上生活者の増加が社会問題になるにつれ、5月にヘンリー王子の挙式が行われるウィンザーでは、路上生活者の取り締まりを強化。   公共スペースに寝具を置く者や物乞い行為に対して100ポンドの罰金を科すと自治体が発表。   ロイヤルウェディングで世界中から観光客や取材陣が集まることを想定しての一掃作戦であるが、これは全国的に物議をかもしたので、さすがに自治体は撤回を余儀なくされた。   ふつうに考えれば、罰金は珍妙な案で、路上生活者をなくしたいのならシェルターを提供した方が早いと、みかこ氏は指摘する。   A氏:メイ首相の路上生活者ゼロ宣言に現実味がまったくないのも、ウィンザーの自治体がシェルターに予算を使えないのも、理由は同じで緊縮で財政支出をカットしているから。   私:ところで、この記事で、興味があったのは、ポルトガルの財政政策だね。     それは、ポルトガルは、緊縮病にかかっていると言われているヨーロッパにあって例外的に大胆な反緊縮の政策を取り、成功している国だからだ。     ユーロ加盟国は、「ギリシャのようになりたくなければ緊縮しなさい」と言われ、多くの政治家や知識人が、愚かにも一国の財政を家庭の財布になぞらえ、「倹約して借金を返済しないと破産します」と財政均衡ファーストのマントラを繰り返してきた。   私:ところが、ギリシャ同様に財政危機に陥ってEUから緊急融資を受けたポルトガルは、15年に社会党政権が発足すると、一転して反緊縮に舵を切り、最低賃金引き上げ、逆進性の高い増税案の破棄、公共部門職員賃金と年金支給額の引き上げなどを行った。   「まやかしの経済」、「すぐ財政破綻してまた救済が必要になる」と緊縮派は激しく批判したが、ポルトガル経済は奇跡の復活を見せた。   内需が拡大し、13四半期連続で堅調な経済成長を遂げ、財政赤字も快調に減らしていて、16年には、単年度の財政赤字額の比率がGDPの2%になり、初めてユーロ導入国に課された財政基準を満たした。   つまり、ポルトガルは、「ドイツとEUが提唱する緊縮をしなくとも経済は好転し借金も返せる」ことを体現する存在になっている。   A氏:これは混迷する欧州に灯った希望の光だが、同時に腹立たしくもなると、みかこ氏は指摘する。   いまだに半数以上の若者が失業し、自殺者が増加したギリシャ、ローンや家賃が払えなくなった人々が続々と住宅退去させられたスペイン、経済不安から極右が台頭しているフランス、そして路上生活者が増え続けている英国は、いったい何のために緊縮財政を続けているのか。   統計上のEU全体の経済は好調でも、各国の問題は深いと、みかこ氏はいう。   3月4日に総選挙のあったイタリアも同様で、「イタリア、ばらまき総選挙 公約合戦に欧州の壁、火種にも」のブログでとりあげているね。   私:今年1月、ポルトガルの経済復興の立役者であるセンテーノ財務相が、ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)の新議長に就任。   この人事を推したのはドイツだったと言われており、メルケル首相は欧州の緊縮体制が機能していないことをようやく認めたとささやかれているという。   みかこ氏は、「もしそうだとすれば、欧州の長すぎた冬はついに終わるかもしれない。08年の経済危機で始まり、緊縮が悪化させた『失われた10年』の終焉を告げる暖かな春の光を、欧州の地べたは待ちわびている」という。   日本も現在、大幅な赤字財政だが、こないだ入水自殺した西部邁氏は、国家財政は、家計と異質で赤字財政を問題にするのは、愚論だと言っていたね。   日本の来年度の予算案総額が96兆7218億円で、過去最大で、財政赤字は続く。   財政再建をどうみるか。  ポルトガルのように賃金上昇による内需増加がポイントか。  少子高齢化の日本には難しい問題もあるがね。

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