知的漫遊紀行

2018/03/19(月)19:54

「書評:ケイト・ラワース〈著〉『ドーナツ経済学が世界を救う 人類と地球のためのパラダイムシフト』」評者・諸富徹(京大経済学教授)・18日朝日新聞・読書欄

私:経済学部に入ってきた学生は、抽象的な理論、数式、統計など、これらが現実とどう関わるのかと迷う。    著者のケイト・ラワース氏も、オックスフォード大学で経済学を学び始めたとき、まさにこうした状況に直面。   結局、著者は経済学を離れて国連とNGOで開発途上国の問題に携わるが、改めて経済学の影響力の大きさに気づき、研究者としてオックスフォードに戻り、そこでの思考の成果が、本書だという。   この本は経済学的思考の特徴と、それとは対比的な著者の思想を、より多くの読者に直感的に伝えるため、簡明なイメージ図を多用。   A氏:「ドーナツ」がそのイメージ図の一つだね。   私:「ドーナツ」は、著者の思想の核心を示す。   「ドーナツ」の「外円」は、経済活動がこれ以上拡大すると、自然や生態系を破壊してしまう点で、経済活動の上限を示す。   「ドーナツ」の「内円」は、それ以下に経済が縮小すると窮乏問題に直面することを示す。   A氏:誰にとっても公正で持続可能な経済は、二つの円に挟まれた領域だというわけだね。   私:これは、我々が求めるべきは、貧困問題と環境問題を同時解決する経済システムであることを示している。   それには経済学に、全体性と人間性の重視、機械的均衡論からダイナミックな複雑性への移行、分配と環境再生の重視、そして成長依存からの脱却が求められると、著者は説く。   A氏:評者は、「本書は、出来上がった理論を現実に応用するのではなく、現実問題から出発し、課題に挑む中で新しい理論創造が始まることを教えてくれ、著者の試みが経済学をさらに魅力的にし、『冷静な頭脳と温かい心』をもつ未来の学生を惹きつけることを期待したい」と言う。   私:学生をひきつけるだけでなくこのブログの以下の「資本主義の崩壊・知的街道」という末期論に対抗して、「ドーナツ」型の次の世界経済の姿を具体的に示してもらいたいものだね。    「資本主義の終焉と歴史の危機」、「低成長経済 時間かせぎの資本主義、限界に」、「社会主義崩壊後の世界 新自由主義に壊されるもの」、「日銀の超金融緩和 成長の「その次」の価値観」  

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