知的漫遊紀行

2018/04/09(月)19:25

ロバート・R・カーギル氏〈著〉『聖書の成り立ちを語る都市 フェニキアからローマまで』・評者、出口治明氏(立命館アジア太平洋大学学長)・7日・朝日新聞・「書評」欄

私:評者は、世界で一番読まれている本は聖書だろうとして、本書は、古代オリエント世界で栄えた都市を旅しながら、歴史が聖書にどのような影響を与えたかを記した一般向けの啓蒙書で、少しでも聖書に興味がある人には、ぜひとも読んで欲しいユニークな1冊だと紹介している。   A氏:著者の旅は、フェニキア人の都市「ビュブロス」から始まる。   バイブルの語源となった町で、その北方の大交易都市「ウガリト」の主神エルは、旧約聖書に登場する神ヤハウェのモデルになったという説もあるが、もしそうなら、世界を席巻した「セム的一神教(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)」は、この港湾都市で生まれたことになる。   私:破壊と邪悪のシンボルであり続けた「バビロン」は、「エルサレム」が破壊されユダヤの人々が「バビロン」に捕囚民として連行されたので、「バビロン」が憎悪の対象となる。   しかし、旧約聖書が文書の体裁をとり始めたのは「バビロン」の町においてのことだった。   捕囚はペルシャの「キュロス大王」によって終わりを告げ、預言者「イザヤ」は「キュロス」を「メシア(救い主)」として歓迎。   ここから「メシア」を待望する観念が生まれ、「イエス」に結びついていく。   「アレクサンドリア」で聖書は「ヘブライ語」から「ギリシア語」に訳され「七十人訳聖書」と称されるが、訳で様々な問題が生じた。   すなわち、「モーゼ」の渡った「葦の海」が「紅海」、「イザヤ書」の「若い女性」が「処女」と訳された。   A氏:キリスト教の根幹を成す「処女降誕」は誤訳から生まれたのかも知れないというのは興味ある指摘だね。   私:「クムランの洞窟」で発見された死海写本は聖書本文の変遷を実証。 旅の最後は「ローマ」で、旧約、新約聖書の正典化の作業は、実に4世紀末まで続いた。   このように、聖書を中心に古代に栄えた都市を旅する紀行書は確かに、興味を引き、少しでも聖書に興味がある人には、ぜひとも読んで欲しいユニークな1冊といえそうだね。    

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