知的漫遊紀行

2018/10/17(水)18:08

「過激な言論、英メディア分断 現地在住ジャーナリスト小林恭子氏に聞く」17日朝日新聞夕刊・「文芸・批評」欄

私:ブログ「『新潮45』問題と休刊 せめて論議の場は寛容に」でとりあげた例の「新潮45」の休刊問題に関連して、英国でもいま、過激化した言説により、メディアに深刻な分断が起こっていると、実状を現地在住ジャーナリスト小林恭子氏に聞いている。   英国には、人種や宗教はもちろん、性別や性的指向による差別を禁じる法律が多数あり、また、新聞もBBCのような放送メディアも、市民の側に立った権力監視を期待されている。   一方、英国では伝統的に、高級紙から大衆紙まで多くの新聞が旗幟を鮮明にしてきて、16年の「EU離脱」を問う国民投票を巡っても、激しい対立があったのは周知の通り。   英国では移民政策への不安やエリート層への長年の不満がマグマのようにくすぶっており、それを草の根の分離運動や英国独立党のキャンペーンがくみ上げ、強烈な個性をもつ政治家が拡散。   一部の大衆紙やネット上のソーシャルメディアがそうした拡散の舞台になり、最終的に声が大きい方が勝り、国民投票で「EU離脱」が決まるという極端な結論につながった。   A氏:反移民を唱える「離脱派」の過激な発言はまず保守派の大衆紙、デイリー・メールやサンに出て、それを他の大衆紙やソーシャルメディアが追いかけ、保守派高級紙のデイリー・テレグラフなどへと広がっていき、「離脱派」と「残留派」双方の意見をとりあげる形でBBCも過激な発言を扱うようになり、ついには実際の政治に影響を与えるに至った。   扇情的なメディアとネットが共鳴し、過激な意見が幅広く流通するという点で、英国は米国に似ているところがある。   異なるのは、世論をあおる政治家が英国独立党のファラージ元党首やボリス・ジョンソン前外相にとどまり、キャメロン前首相やメイ首相がトランプ大統領のように攻撃的な言動を見せていないことで、野党労働党のコービン党首も同じ状況を利用し、党内外の支持者を組織する運動を浸透させている。   小林恭子氏は、「日本のメディアはまだ、こうした英国ほどの致命的な分断には陥っていないように見える。主要メディアの力を借りて極端な意見が政治運動にまで発展し、それが政治を動かすようなところまではいっていない。  『新潮45』の休刊を他人事にせず、状況を冷静に分析し、問題を可視化する水際の努力がいま、日本のすべてのメディアに求められているのではないだろうか」という。      ところで、同じ「文芸・批評」欄の「時事小言」欄で、「民主主義の後退 正統性の礎を失う世界」と題して国際政治学者・藤原帰一氏が世界的に起きている「民主主義の後退」を指摘している。    英米など世界の国の「メディアの分断」の背景にそれがあるようだ。    藤原氏は、スタンフォード大学のラリー・ダイアモンド教授がその著書「民主主義の精神」において「民主主義が世界的に後退している」と指摘したのは2008年のことだという。   この指摘を受けて英「エコノミスト」誌は民主化指標を毎年発表してきたが、2017年のデータも含めた最新版でも「民主主義の後退」を指摘している(2018年1月31日付)。   藤原氏は、「権威主義体制が優位となった世界では、そのような正統性(民主主義の)も国際体制の安定も期待することはできない。権力闘争と力の均衡の支配する古風な国際政治の復活が、つい目の前に迫っている」と憂慮している。    何か、世界は緩やかに一つの方向に動いているような気がするね。       

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