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りゅうちゃんミストラル

2009.11.17
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カテゴリ:読書
第132回直木賞受賞作、「対岸の彼女」を読んだ。

     

私が角田光代の作品を読むのはこれがはじめて。
特にこの作品については前から気になっていたうちの一冊。

彼女の文章は読みやすい。
ページの割りに、するすると読めた。

専業主婦の小夜子には幼い娘がいる。
「公園デビュー」に失敗した小夜子は、働きに出る。
面接でいくつか落とされた後、採用されたのが葵の会社。
旅行関連会社ではあるが、家庭の清掃を請け負う事業を始めるという。
その清掃事業の中心が小夜子だ。

物語は二つの話が交互に描かれて進む。
ひとつの話は小夜子中心。
報われない主婦業。
しかも夫や姑との関係が重くのしかかる生活。
結婚前に勤務していた会社での人間関係から小夜子は脱したはずだった。
しかし新しい世界にはまた別の人間関係がある。

もうひとつの話は葵とナナコの高校生時代の話。
イジメがあり、家庭崩壊がある。
主婦の公園と学校は、下らない集団を作るという点で同じ。

この二つの話が終盤、一つになる。
村上春樹の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」。
そして手塚治虫「火の鳥」太陽編でもこの手法は使われた。
私はまだ読んでいないが、話題の「1Q84」もこの手法を用いている。

タイトルにある「対岸」。この意味は何だろうか?
すぐに思いつくのは小夜子と葵の対比。
奇遇にも同じ大学の同級生だったが、別の道を歩んでいる。
主婦とビジネスウーマン。

もうひとつあるのはナナコと葵の対比。
私はこの本を読んでいて、ナナコの家庭環境に興味があった。
物語序盤ではそれを表現する部分がない。
それだけに「何かある」とずっと感じていた。
問題はそれが何かという点だ。
(ナナコの両親については結局分からずに終わる)

終盤、もう一度ナナコの出番はあるのか。
私はそれも気になっていた。

個人タクシーの運転手をしていた葵の父親。
彼のはからいでナオコと葵は高校生のうちに再会する。
しかしその後は音信不通。

これにはいろんなことが考えられる。
本文中に出てきたように「怖かった」から連絡しなかった。
ひとつにはそう考えられる。

ナナコは手紙を書いたが、葵の母親がそれを隠していた。
実はプラチナのリングも母親が隠していたかもしれない。
そう考えることもできる。

答えのない疑問についてあれこれ考えるのは楽しい。
それは小説を読む醍醐味のひとつとも言える。

もうひとつの醍醐味。
それは「この話を別な作家が描いたらどうなるか」という点。
重松清なら、別のアプローチだったろう。
石田衣良なら、二人の女子高生についてどう描いたか。
成長した葵と小夜子についてもそれは同じ。
当たり前だがこれは女性の視点で書かれた小説。
読んでいてそのことを強く感じた。

特に、小夜子の夫とか木原など男性陣が見事に脇役。
この点がいかもに女性作家。

印象に残ったのが以下の部分。

「ひとりでいるのがこわくなるようなたくさんの友達よりも、ひとりでいてもこわくないと思わせてくれる何かと出会うことのほうが、うんと大事な気が、今になってするんだよね」

「ひとりでいてもこわくない」
そう思えるまで人間は時間がかかる。
「ひとりは嫌だ」と思いつつ死ぬ人も多くいる。

人は集団でいることにより安心する。
逆に、孤独は人をどこまでも不安にさせるもの。
不器用であればあるほど、組織(集団)に対する依存度は高まる。
それは女子高生でも主婦でも代わりがない。
だからこそ、この小説は成り立つ。

「負け犬」「勝ち組」「女の友情」女性の人間関係ではいろんなことが言われた。
女性の読者は、この小説をどの視点で見るのだろうか?
分析してみたら面白いかもしれない。

蛇足になるが、ラオスの名誉のために書いておく。
物語の終盤、ラオスのバス停が出てくる。
私はかつてビエンチャンとワンウィエンの間をバスで旅をしたことがある。
ラオスという国はのんびりとした素朴が自慢の国。
葵のような被害に遭うことは少ない。

ただし、ワンウィエンから北の国道13号線は事件が起きている。
世界遺産の街、ルアンパバーンまでの道はバスも襲撃されたことがある。
葵が金を奪われたのは実に運がない。
いくら素朴なラオスといっても、知らない人についていくのも問題あり。
(ナナコの名前が彼女をそうさせたというのは十分理解している)

今後も角田光代の作品を読むことはあるだろう。
私は読みやすい作品を書く作家を歓迎する。
「じっくり描いて説明じみていない」という点も好感が持てる。
エンディングに希望があるのも救われる。
正直、この作品を読んで損はなかった。

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ひとりでいてもこわくないと思わせてくれる何か

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最終更新日  2009.11.17 20:49:16
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