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行き場のない文書ーハリーポッター短篇小説

たしかあれはハリーポッターの日本語版の一巻だけが出てた頃。
ハリーポッター友の会という公式ファンサイトに入っちまいました。
そこでハリーポッターへのオマージュというかパロディというか同人系というか、そんな絵や小説を公募してました。んで、えいやと書いて応募したのが下の短篇です。
最近掲載されなくなったみたいなので、これもハードディスクの肥やしにしかなってないです、ここに載せときます。



ドラゴンの涙



そのドラゴンは空にいた。
4人の魔法使いにつりさげられて。
月の隠れた夜。
ぽつり。
ドラゴンの涙がひとつぶ、地面に落ちてゆく。
静かな夜。

ドラゴンは竜の言葉で泣いていた。
「ママ!どこ?ママ!どこ?」
ドラゴンはもう一度あばれようと羽をもちあげた。
そのとき、目に浮かんだのは、悲しそうなママの顔。
ドラゴンの羽はゆっくりたたまれた。
ママ!モジャモジャのヒゲのママ!
大きかったママ。
やさしく笑ったママの顔。
ママの小さな友達が怖いことした時に、守ってくれたママ。
それから...
ママの小さな友達を噛んだときの、ママの悲しそうな顔。
もう一度、モジャモジャのヒゲでやさしく笑うママにあいたい。
テディベアなんかほしくない。
ママ!

僕が悪い子だったから?
いい子になったら、また、ママ、笑ってくれる?
だったら僕いい子になる。
もう、ママのこと遊んで噛んだりしない。
それから、ママの小さな友達も噛まない。
ママと同じヒトも噛まない。
火もヒトの前では吹かない。
そうしたらママ、またあってくれる?

ぼくは... 
やさしいママのヒゲの奥から一つの言葉が聞こえる。
そう!
僕はノーバート!
ヒトの名前を持つドラゴン!
いつか、ママがやさしく笑ってくれるドラゴンになるんだ!

きらりとドラゴンのうろこがひかった。
空の向こうが明るくなっている。
4人の魔法使いたちはゆっくりやさしく降りはじめる。

その時ドラゴンは知らなかった。
彼がこの空を飛べる事を。
彼に仲間がいる事を。
そして、ママの愛が守ってくれている事を。

そして、地上では、火傷の痕のある青年が空を見上げていた。
ノルウェー・リッジバック・ドラゴンの事が心配で一睡もせずに
外に出ていた。
もうひとつ火傷の痕ができたって彼は平気だろう。


おしまい。
2001/1/29



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