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カテゴリ:映画
77歳のロバート・レッドフォードがやってくれた。ほぼひとり芝居の106分だが、クレジットに登場するすべてのスタッフ、とりわけ監督のJ・C・チャンダーには拍手を。
パニック映画に興味はないがサバイバル映画には興味がある。いつ似たような状況に自分が遭遇しないとも限らないからだ。ちょっとした知識や知恵で生と死の境界がわかれることは、多少とも自然とかかわったことのある人なら切実にわかるはずだ。 登場人物はレッドフォードただひとり。だからセリフがない。字幕がなくても98%は理解できるにちがいない。吹き替えや字幕の必要のない映画の可能性を見せてくれた点でも特筆すべき作品だと思う。 公式サイトのストーリーを転載。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ことの起こりは8日前。インド洋をヨットで単独航海中の男は水音で眠りから覚める。気が付けば、船室に浸水が。海上を漂流していたコンテナが激突し、ヨットに横穴が開いてしまったようだ。航法装置は故障し、無線もラップトップも水浸しで使い物にならない。しかし、この災難は始まりに過ぎなかった。 雨雲が迫り、雷鳴がとどろき、やがて襲いかかる暴風雨。嵐が去った後に、男は過酷な現実に直面する。ヨットは決定的なダメージを受け、浸水はもはや止めようがない。ヨットを捨てることを決意した男は食糧とサバイバルキットを持って救命ボートに避難する。ここはいったいどこなのか? 助けはやってくるのか? ボートへの浸水、サメの襲撃に加え、飲み水や食糧は底を突き、危機的な状況は続く。ギリギリまで踏ん張ったものの、望みは確実に断たれようとしていた。 運命に見放されようとしたとき、男は初めて自分自身の本当の気持ちと向き合う事になる。 そして、一番大切な人に向けて読まれるかどうかもわからない手紙に、偽りのない気持ちをつづり始める……。 ・・・・・・・・・・・ とまあ、感動的な映画のように紹介されているが、ほぼ全編が次々と襲いかかる災難、生じる課題、トラブル解決に立ち向かっていくシーンで構成されている。レッドフォードは、数々の危険を乗り越えてきた自信があるようで、穴のあいた船体や無線機を修理し、浸水を排水しと、まるであたりまえの仕事かのように淡々と「いまこの瞬間にするべきこと」をこなしていく。 しかし危機は常に彼を先回りする。万策が尽き、救命ボートの上で紙を燃やして存在を知らせる。その火は救命ボートに引火し、文字通り、彼はすべてを失う。 だが、すべてを、それも自分のミスによって失ったとき、逆説的なことに彼は助かる。このラストも寓話的かつ神話的であり、意味が深い。 危機や危険に遭遇したとき、最も大事なのは感情を殺すことである。それさえできれば自ずと道が開けるというか「何をなすべきか」はわかってくる。わかれば、それをただクリアするだけのこと。やってだめだったら、つべこべ言わず諦めるしかない。 なるほどこういうサバイバルキットがあり、天測航法という航法があり、海水から真水を得る方法があるのかなどと、教えられることも多い映画だ。海水から真水を作る方法などはよく知られているのかもしれないが、知らなかったし、この映画でもレッドフォードが思いついて発見したように描かれている。こうして自分自身で創意工夫する精神を、100均ショップの買い物に馴らされたほとんどの日本人は失っている。 誰かに、何かを書いて瓶に入れ海へ流すシーンはたしかにある。しかしそれもこの老人がどんな人物でどんな人間関係があるのか背景はいっさいわからないので、想像したり感情移入したりすることはまったくできない。事故で炭鉱に生き埋めになった人たちが死ぬまでの間にツルハシで書いた遺書のようなものを読んだことがある。それは具体的な対象があるので感動的だった。 しかしこの映画では、なるほど人間は死を覚悟したときこういう行動をとるものなのか、自分でもそうするかも、といった程度の共感しかできない。 しかしそのことも含めて、いやそれだからこそこの映画には強いリアリティが生まれている。監督・脚本のチャンダーを高く評価するのはそのためだ。 生命を左右する危機に際して人間はどう行動するべきかの規範がこの映画には示されている。そしてそれは、日常生活においての規範とほぼ共通であり一致している。 この映画を観たあと、一刻もはやく帰宅し不要品の整理をしようという気になった。 ところで、この映画の前に上映された「マイ・マザー」は満席だったのに、この映画は最終日というのにガラガラだった。このことは、観客が映画に求めるものは何かをよく示している。 蠍座は日本一の映画館だと思うが、蠍座の客は必ずしも日本一の客ばかりではないということだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
July 29, 2014 12:47:25 PM
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