投資の余白に。。。

May 14, 2016
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カテゴリ:読書日記
何十年も前に、それもほんの短時間しか会っていないのに、印象と記憶に残る人というのはいる。なぜかあるとき、ふとその人の名前を思い出したりする。

この本の著者もそんなひとりだ。

同じ大学の150キロほど離れた分校の無党派活動家だったM君と一緒に彼女は現れた。どんな用件だったかは思い出せない。卒業間近だったような気がするから、何かを一緒にやろうという話ではなかった。共通の関心はといえば、卒業後(というか中退後)の身の処し方や運動の展望のようなものだったから、そんなことでも話しただろうか。

M君はその後自治体労働者になった。彼女が新日本文学賞の賞をとった(1983年)とき、小説家をめざしているのだろう、文学少女だったのかと誤解したし、この本を読むまで誤解したままだった。

1991年から93年までの二年間、コロンビアとボリビアで海外青年協力隊隊員として活動したときのことを書いたこの本は、限りなく小説に近い自伝の趣きがある。「南米最大の麻薬都市メデジンでの日々を深い祈りとともに描くハイ・スピード・ノンフィクション」とあるが、まあ何と軽薄な要約であることか。

二年間もの滞在では無数の出来事があったと思うが、その中で重要なことを的確に選び出し、簡潔かつ詩的な、ときに哲学的といえるほど内省的な文章で綴っている。凡百の旅行記や見聞記とは決定的に異なっている。個人的な体験を軸に書かれているが、これほど優れた「ドキュメンタリー文学」に出会うことはそうない。

現代という時代に対する深い問題意識と社会矛盾に対する先鋭な視点がなければ書くことのできない本だ。

本書から彼女のその後を推測するなら、卒業後彼女は高校教師になり、教師生活と平行して旭川で劇団を主宰、シナリオも手がけていた。

巻末の略歴によれば彼女が25歳から31歳にかけてのこと。

そしてその間にはヨガとスペイン語を学んだ。とすると、彼女の大学での専攻、高校で教えた学科は何だったのかと興味がわく。

秀でた文章力からすると国語科だろうか。あるいは外国に関心があったとすれば英語科だろうか。本書ではインドでの話も出てくるが、それはヨガの本場への興味からだったのか、インド旅行がきっかけでヨガに興味を持ったのか。あるいは体育科の出身で身体への関心からヨガを学んだのか。

ボリビアで出会った人権活動家と結婚したらしいが、本書の叙述は帰国したところで終わる。たぶん、海外青年協力隊の任期を終え、その活動からも離脱したのだろう。そのための帰国だとすると、すぐにまた夫の待つボリビアに戻ったのだろうか。

そのときから数えても20年以上の歳月が過ぎている。消息を調べたがわからなかった。ただし2005年には碧天社から「チャクラを開いて」という本を出しているのでそれを読めば少しはわかるかもしれない。

それにしてもほぼ同世代の彼女が一日平均24件の殺人事件が起こるコロンビア(メデジン)、援助が政治の腐敗を助長するボリビアで苦闘しているその同じ時期に、こちらはヨーロッパでコンサートだグルメだとお気楽な人生を送っていたのだから自己嫌悪にかられる。

そもそも人間のできがちがうのだと開きなおってしまえばそれまでだが、使命感ではなく、自己発見のためでもなく、本書の随所に記述される日本社会への違和感から遡行していく魂の震動のようなものには強く共感せずにいられない。

そんなことを語りあってみたいと痛切に思いながら「チャクラを開いて」を発注したところだ。






最終更新日  May 14, 2016 03:30:21 PM
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