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カテゴリ:読書日記
「サパティスタと叛乱する先住民族の伝承」の副題がある。
著者のマルコス副司令はサパティスタ民族解放軍(EZLN)のスポークスマン。メキシコ・チアパス州先住民族主体のEZLNにあって数少ない非先住民のメンバーで、哲学の元大学教授だという説がある。副司令と名乗っているのは真の司令官は人民だという信念に基づくという。 「文章を書いていないと発砲してしまうから」というマルコス副司令。その彼が1984年に密林で出会ったのが老アントニオで、老アントニオが亡くなる1994年まで両者は交流したらしい。 その老アントニオからきいた先住民族の伝承、神話のような寓話のような話を彼は子どもたちや恋人に、そして市民集会などで語った。コミュニケとして発表されたものもある。それらを集めたのが本書ということになる。 都市のマルクス=毛沢東主義者が密林で先住民の老人と出会う。ふつうなら組織化の対象としかみなさないだろう。 しかしマルコス副司令はちがった。先住民の持っている神話的世界観、伝承からくみとることのできる文明世界とはまったく異質な知恵に何かを見いだしたのだろう。老アントニオから話をきき、質問し、その中で近代主義的な思想と発想、論理の言葉が切り捨ててしまう大事なものの存在に気づいたにちがいない。 この本を読んですとんと理解できる人間はほとんどいないだろう。先年亡くなったポルトガルの映画監督、オリヴィエラが映画で紡ぐ言葉のように、われわれがふだん使う同じ言葉がまったくちがう意味、ちがうイメージを喚起していく。 ごくわずか、われわれにも理解できそうな部分がある。 「すべての言葉、すべての言語に先行する最初の三つの言葉は、民主主義、自由、正義である」(88ページ)から始まる一節である。 そこでは民主主義についてはこう語られている。 ・・・「民主主義」は複数の考えからうまく合意を作りだすことである。全員が同じ意見をもつことではない。すべての考え、あるいは大多数の考えから、少数の考えを排除するのではない。大多数の人にとってよいと思われる合意をいっしょに探し、そこへ到達することである・・・・ 多数決民主主義がいかに非人間的なものであるかをこれほど平易な言葉で表した文章には出会ったことがない。これが、何の教育も受けたことのない狩猟名人の先住民の老人の伝承であり知恵なのだ。 1994年、まさに老アントニオの死の年に反政府・反グローバリズムを掲げて武装蜂起したEZLNが強大な政府と政府軍に対して勝利といってもいい成果を勝ち取ったのは、本書の扉にあるように、都市世界のマルクス主義者と先住民世界が老アントニオを媒介として融合をとげたからにちがいない。 詩と政治に架橋する精神とはどのようなものか、ほんの少しだけわかった気がするが、詩的でない政治的言語と政治的なものをはらまない詩的言語の両方に対する警戒心、あるいはそういったものの不毛さを見抜く何かはもらえたような気がする。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
June 4, 2016 08:03:12 PM
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