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カテゴリ:読書
「マグネット」(山田詠美)を読みました。
「罪とは呼べないような罪、罰とは呼べないような罰」をテーマにした9つの短編。 解説で川上弘美が何度も「洗練」という言葉を使っています。 リアルなんだけどおとぎ話のようだったり、日常からは遠い世界の中に誰もが日常の中でふと感じるものが描かれていたり。自由自在。思考が柔軟。 「風味絶佳」ほど「洗練」されているとは感じないものの、随所にきりっと光るものを感じました。 罪とは呼べないような罪、とはいっても、最初の「熱いジャズの焼き菓子」では殺人犯をかくまう女が主人公。終わり方がとてもきれいでした。 少し、ストックホルム症候群的な心理やふたりの同調したやり取りが描かれていて、後からぞくっとします。 次の「解凍」は同級生が連続放火犯で逮捕されたという新聞記事から、十年ほど前の同級生とのやり取りを思い出していくという話。 正常と異常の区別がつかない、怖さ。ぞぞぞっ、としました。 学生の会話がリアルでうまいと思いました。 「瞳の致死量」は、向かいの建物に住む人たちの暮らしを双眼鏡で覗き見するカップルの話。 これは一番おとぎ話的なお話でした。 芥川龍之介の「蜘蛛の糸」を思い出しました。 一番よかったのはラストの「最後の資料」。これは別格。 誰でもいつか自分が死ぬということはぼんやりと意識しているものの、それがいつ来るか分からないから日々過ごしていけるわけですが、自分の命がいつ頃までしか持たないと知ってしまったら、これまでと同じ日常の風景もすべて変わってしまうでしょう。 読んでいるときは、ノートに残された記録がこのようなものだったのは、本人が最後まで諦めていなかったからだろうと思っていましたが、しばらくして、逆だな、と思いました。 妻や子どもへの接し方も、遺す記録も、後に残る人にどう映るかを意識したものになっていったのだろうと思いました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.07.28 23:27:46
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