ドイツの学生団体について。
ドイツ語ではVerbindung(フェアビンドゥング)とか、Burschenschaft(ブルシェンシャフト)とか呼ばれているこの学生団体は、伝統的に保守の右派に属する。元々ドイツ愛好国団体を母胎とし、ドイツのために力を尽くす男子学生のみを入れる。近年、アルタナティヴェと自称する団体も増えてきて、そこでは女性や外国人学生も受け入れている(アルタナティヴェについては、別項で説明)。この団体に入る=団体の建物に住むと、いろいろな利点がある。例えば、部屋代は格安。建物自体、前に書いたように由緒ある造りで、なおかつ内装はすべて近代的。庭やバルコニーはもちろん、ネッカー川に浮かぶシュトッハーカーン(棹さし舟。10人あまりが乗れる)も所有。食事は団体によって専門のコックさん付き(つまり自炊しなくて良い)。卒業以降もつながりがあるので、就職のときには非常に便利。大抵、経済、法律、医学関係者がうじゃうじゃしているので、何かあったときには頼れる人多し。 お金のない学生に援助と勉学の機会を与え、ある程度お金の自由があるようになってから、他の学生に与える形で自分に与えられた援助を返させる。これは本来、悪くないシステムである。しかし、愛国心に燃える学生か、もしくは本当にお金に余裕がない学生や計算高い学生でなおかつこれらの団体のモットーを余り意に介さない人以外、余り入りたがる人はいない。何がうまくないのか。 何と言っても愛国主義的保守主義。まず、愛国主義は今更流行らないばかりではなく、とにかくドイツにおいては分が悪い。極右でなくても、分が悪いのだ。国を思う気持ちは悪くないのだが、それが他国排斥主義的、もしくは自分さえよければいい形式になりがちだから困るのである。そしてこれらの団体はその歴史的背景から、他国もしくは他国者排斥主義的ではないという印象を与えづらい。更に、この団体自体がエリート養成団体としての意味を持ち、自らをそれらの団体に属さないものから一線を画したエリート集団と位置づける傾向がある。従って、上に書いた「自分が王様」主義的印象は、どうしたってぬぐいようがないのである。 そして、エリート集団であることの鼓舞、そのための様々な儀式的催し物。これを前時代的として嫌がる学生もまた、多い。これらの団体では、団体の志気を高めるためにいくつかの儀式やきまりなどがある。昔は団体員同士で防護面なしの決闘みたいなことをやって、顔に傷を付けるのが当たり前だったのだが、今、そんなことをやるところはほんの一部である。フェンシングは大抵の団体で団員のたしなみとして習い、団体同士でそれを互いに披露したり戦ったりする大会もある。ある団体の知人は「僕たちは、もちろん防護面、防護ベストなど、全部着ける」といっていた。極々たまに「古き良き伝統」に従って顔に傷を付けて歩いている団体員を見かけるが、いい気持ちになっているのはその団体に属する学生のみといっても良い。他の学生は、「馬鹿だね、ありゃ」とか「あんなのには関わりたくないね」「時代錯誤も甚だしい」といった反応を見せる。その他、外出時には団員のタスキを着けるなど。タスキといっても、ほら、ミスユニバースなどが片側の肩から斜めがけにしているもの。あれの細いバージョンを思い描いてください。それぞれの団体によってシンボルカラーが違い、そのシンボルカラーで作ってある。三色なら三色を長く。2色のところもあり。 最後に、学生時代に受ける恩恵を生涯にわたって返しつづける義務がある。例えば寄付。例えば、毎月の自分の稼ぎから何%とか。不定期の寄付はさておき、まことに評判が悪いのが、毎月の稼ぎからいつも幾らか支払わねばならないシステム。給料もらい続ける限り続くんだから、たちが悪いとはある学生の言葉。たちが悪いかどうかは別にして、他の学生は「ずっと借金の支払いをしているみたいで嫌だ」そうです。一度住むと終生名誉団員のようです。全く違った年代の人と、初っぱなから敬語なしで語るというのはふつうドイツでは考えられません。そんなドイツで、同じ団員ということのみで、会ったそのときから敬語も何もない世界で語り合うというのも、面白いとは思うのですが。 あと、このハウスでお決まりなのが、飲んだくれて酔っぱらうこと。のめなきゃやっていけないともいえるらしい。ことあるごとに、飲む。飲んだら、最後まで飲む。これを覚えていて、50や60のおじさんになってもたまにやってきて(名誉会員は、いつでもそのハウスにやってきて泊まれるという決まりがある)、夜中まで大騒ぎして現団員の迷惑になっている人もいるそうな。団体の中には、宗旨替えというか、前に書いたようにアルタナティヴェとして、本当に勉学をたしなむ学生のための互助団体として活動しているところもあるので、そういうところでは、昔のままに行動する団員は鼻つまみ者状態になってしまうのね。 ところでAlternative(アルタナティヴェ)ですが、これは元々形容詞でalternativ(アルタナティヴ)、選択的、反対のという意味を持っています。そこから派生して、現代社会の自然環境破壊や人間疎外などに対する反対運動をAlternativbewegung(アルタナティヴベヴェーグング)、それに関わる人々や団体をアルタナティヴェと呼ぶようになっています。従って、エリート集団を育てる元々のVerbindungの意図とは合わないんだけど、よりよきドイツを目指すための団体、とした場合にはいいということになるのかな。この団体の建物に住んでいた親友は、女性だった。食事代も含めた家賃は部屋の広さごとに決まっており、大学の寮と同じかそれよりも安いくらいだった。そこへ越すことも考えたが、やめた。理由はいくつかある。一つは、壁が薄くて隣の部屋、もしくは何かの催し物があるときにそこからの音が丸聞こえなこと、もう一つは、住人としての義務に週一で住人全員のご飯を作るか、買い出しをするかがあること、週一で1時間くらい住人全員での話し合いがあること。後者は何とかやったとしても、私はドンちゃん騒ぎや馬鹿でかい音で聞く音楽などの騒音には耐えられない。それで今も寮暮らし。こちらも騒音はあるけれど、隣の部屋の音が丸聞こえということはないし、パーティや何かの場合もよる11時以降は原則的に音量を落とすことになっている。落とさない人もいるけど、警察もくるから、どっちもどっち。今のところ、住めない状態ではなく、ありがたく暮らしている。ちなみにドイツは基本的に、部屋そのものは個人部屋。台所やトイレ、シャワーなどがところによって共同スペースとなる。