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カテゴリ:海外文学
頁をめくってすぐ武者小路実篤兄に捧ぐ、とある。神戸の図書館から相互貸借した大正四年の書物である。一種の愛欲の迷いを扱った小説で、しかも自然主義というか、すこぶる自伝的、日本の私小説作家が泣いて喜びそうな本である。
ストリンドベルヒの初婚の相手は、男爵夫人マリエであった。はじめは不倫の恋であり、夫人は二流の女優であった。作者は彼女に夢中になり、戯曲をささげ、男爵とは平和的に和解し、子供が生まれるにあたって正式にマリエと結婚する。月足らずで生まれてきた赤ん坊は、しかし、程なくして死んでしまう。だが本当にその子は月足らずだったのか? マリエは淫蕩な女だった。浪費家だった。自惚れが強く、ヒステリーで、かつバイセクシャルだった…と暴露したこの小説が、19世紀末のスウェーデンの女権拡張家の反感を買っただろうことは想像に難くない。それでも作者は誠実だったと思う。ストリンドベルヒは彼女の恋の奴隷であり、召使であり、保護者であり、金づるであった。時々怒りの発作もでるが、大体において「痴人」と定義して差し支えないと思う。谷崎潤一郎の『痴人の愛』と比べてみるのも一興かもしれない。もっともストリンドベルヒは離婚という形で関係をきちんと清算しているので、後味は決して悪くないのだけれど。… お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.05.31 15:51:25
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