2011/01/29(土)20:16
新百人一詩その49―以倉紘平「雪の降る日」―
「雪の降る日」
以倉 紘平
一九七〇年 大阪で開かれた万国博覧会で
五千年後の人類に届ける
タイムカプセルが埋められた
そのなかに東京都板橋区の小学校四年生
林雅幸君の作文が収められている
<五千年後のみなさん、今日は。
一九六九年一月二十九日、
東京にはめずらしく雪がふっている……>
たしかそんな書き出しの作文だった
五千年後にも
雪は降っているだろう
四十六億年の歴史をもつ地球の営みからすれば
五千年後の地上に雪が降らないことはありえない
私は改めて自然の営みの悠久さを思いながら
五千年後の列島に静かに落ちる雪を思ってみる
その頃も日暮というものがあるだろう
しかし
灯の入った玄関で
外套(コート)の肩先きにかかる雪を払うしぐさや
外の雪を感じつつの夕餉や
帰宅を案じる心などというものはあるだろうか
二十世紀後半の
人間の感情生活を理解するには
膨大な注釈が必要だろう
雪の降る日の
人間のいじらしかった生活
人類はしかしとっくに滅びているだろう
したがって注釈も書かれないだろう
ただ雪だけが
小さな惑星の一隅で降っているだけだろう
その時
私の魂のかけらが
ふぶきのなかにまじっていたとしても
もう何ひとつ思い出せないだろう
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つながりでもう一篇。この詩を読んで不具は思わず「核の冬」を連想しましたが、みなさんはいかがだったでしょうか。
今日は二〇一一年一月二十九日。
奇しくも窓の外は雪であります。…