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カテゴリ:百人一詩
「静物」
吉岡 実 夜の器の硬い面の内で あざやかさを増してくる 秋のくだもの りんごや梨やぶどうの類 それぞれは かさなったままの姿勢で 眠りへ ひとつの諧調へ 大いなる音楽へと沿うてゆく めいめいの最も深いところへ至り 核はおもむろによこたわる そのまわりを めぐる豊かな腐爛の時間 いま死者の歯のまえで 石のように発しない それらのくだものの類は いよいよ重みを加える 深い器のなかで この夜の仮象の裡で ときに 大きくかたむく ------------------------ 詩の授業、というのは今年はまだしていません。 授業のコマ数が少ないうえに、難しいからです。 どんなにやさしい詩でも、多くの知的障害児にとって詩に接するということは、現代詩を読みなれていない一般の人が「静物」を読むようなものではなかろうか、という認識に至ったからです。 実はこの詩、意味を考えるものではありません。 読者はそれぞれ、器に盛られたリンゴや梨やぶどうの類を思い浮かべればよいのです。 あとは、詩の言葉に沿って、その器の性質や、くだものがどんなふうに盛られているか読み取りながら、頭の中で絵画を完成させ、それを味わう。それだけのことです。 今、絵画と書きましたが、時間軸に沿って流れているので、映画と言った方がいいかもしれません。静物といえども生物ですから、「眠り」もするでしょうし「ときに/大きくかたむく」こともあるでしょう。また生物である以上死に向かって「腐爛」していくわけで、全体を眺めた後はそういう細部を再生、静止させ凝視しつつ、想像力を豊かにさせていくのがこの作品の鑑賞の仕方のひとつです。 このブログを読んでいる人はたぶん不具の言ったことが理解できるでしょう。しかし知的障害児と私たちの間には認識の仕方のギャップがあるわけで、そのギャップに思いをいたらせ、じゃあどうすれば少しでもそのギャップを埋められるかを考えるのが、教師の仕事であるわけです。しかし決して無理をしない。能力以上のことを求めない。そういうことも大事です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2011.07.09 03:01:46
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