『時間SF傑作選 ここがウィネトカなら、きみはジュディ』ハヤカワSF文庫
「商人と錬金術師の門」テッド・チャンおなじように『千夜一夜物語』を下敷きにしていても、「真鍮の都」とは一味違う趣向のラブ・ロマンス。「なにをもってしても過去を消すことはかないません。そこには悔悛があり、償いがあり、赦しがあります。けれども、それだけでじゅうぶんなのです」という末尾の文章が心にしみる。代表作『あなたの人生の物語』。「限りなき夏」クリストファー・プリースト凍結者とは誰か。わからないが何となく戦時中の特高やSSを連想させる。彼らに目をつけられたが最後、タブロイドの中の活人画にされてしまう。主人公は、偶然にもその呪縛からとけた男。周りの人には見えないが、彼にだけは、活人画と凍結者が視えるのだ…『限りなき夏』(国書刊行会)収録。代表作『伝授者』(サンリオ)、『魔法』『奇術師』『双生児』(以上早川)など。「彼らの生涯の最愛の時」イアン・ワトスン&ロベルト・クアリアハイティーンの青年とおばあちゃんの愛なんてバカバカしいと笑うことなかれ。おばあちゃんはすぐに亡くなってしまうのだから。絶望した青年は、意識をそこに振り向けるだけで、並行世界の時間軸を遡るというスキルを手に入れる。「マックドナルド」を舞台にした年の差カップルの純愛とその舞台裏をご堪能あれ。代表作『エンベディング』(国書刊行会)、『マーシャル・インカ』(サンリオ)、『川の書』『星の書』『存在の書』(以上創元)、『スロー・バード』(ハヤカワ)など。「去りにし日々の光」ボブ・ショウスロー・ガラスの中では時がとどまる。たとえば南極に一年そのガラスを置いて、家に持ち帰れば一年の間、移り行く南極の風景を楽しむことができる。南極が嫌ならアマゾンでもオランダでもネパールでもどこでもいい。あるいは今は亡き家族の思い出になることも…SF好きなら読んでる途中でネタが割れるお話だが、読後感はしんみりする。『去りにし日々、今ひとたびの幻』(サンリオ)収録。代表作『メデューサの子ら』『おれは誰だ?』『眩暈』『見知らぬ者たちの船』(以上サンリオ)「時の鳥」ジョージ・アレック・エフィンジャーもしも歴史が記録の集積ではなく記憶の集積によるものだったら…個人のレベルではそのとおりなんだけれども、学問的にもそうだったら非常にヤバいなあ、と思ってしまった。代表作『重力が衰えるとき』『太陽の炎』『電脳砂漠』(以上早川)「世界の終わりを見にいったとき」ロバート・シルヴァーバーグ本当に世界が終わりそうになっている近未来。人々はてんでに「世界の終わりツアー」に夢中である。そこで提供される未来は、なにやら『タイム・マシン』で見てきたような光景をはじめとして、どこかで聞いたような話ばかり。所詮、現実から逃避するためのドラッグでしかないのだ…代表作『いばらの旅路』『いまひとたびの生』『時の仮面』『ガラスの塔』『一人の中の二人』など。「昨日は月曜日だった」シオドア・スタージョンはずなのに、今朝起きてみると水曜日になっていた。時空間というのは実は読んで字のごとくで、未来は常に建設中、工事中、普請中なのだ、というおバカな発想によるコメディ。大抵の人は月曜日のあとは火曜日に入るが、何かの拍子で間違って…短篇集に『[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ』『海を失った男』など。「旅人の憩い」デイヴィッド・I・マッスン北は戦場、南は居住区。北では時間の流れが遅く、まるで永久戦闘実験室のよう。たまたま戦時休暇で南に帰った男は、20年後に再び戦地に戻される。だが、時間は22分しか経っていなかった…一体彼らは「誰」と戦っているのか? 「敵」は本当にいるのだろうか?寡作な作家のため、本編が代表作。「いまひとたびの」H・ビーム・パイパー培った知識や経験は今のままで、人生をやり直すことができるなら、人はどんなことができるだろう。たとえば少年時代に戻って、父親にアドヴァイスして彼を大統領にし、第三次世界大戦を防ぐこともできるだろうか? そういう話になるのは、昭和27年という時代のせいでもある。参考書籍:『リプレイ』(ケン・グリムウッド:新潮文庫)、『時間衝突』(バリントン・ベイリー)代表作『リトル・ファジー』(創元)『スペース・ヴァイキング』(徳間)『異世界の帝王』(早川)「12:01PM」リチャード・A・ルポフ12:01から13:01までの一時間を永遠に生きる人々。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」が、自分一人だけ無限の時間ループに気がついてしまった男の喜悲劇。代表作『神の剣 悪魔の剣』『宇宙多重人格者』(以上創元)、『コミックブック・キラー』(早川)「しばし天の祝福より遠ざかり…」ソムトウ・スチャリトクル『タイム・トラベラー』収録。付け加えることなし。代表作『スターシップと俳句』(早川)、『ヴァンパイア・ジャンクション』(創元)「夕方、はやく」イアン・ワトスン中世の朝に始まり、現代の夜に終わる一日がずっと繰り返される世界。そのうちに世界はだんだん退化して、一日の終わりが中世になり、火の発見になり、はじまりがキツネザルになり…なんだこりゃ?「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」F・M・バズビイこれも『タイム・トラベラー』収録作品。オードリー・ニッフェネガーの『タイムトラベラーズ・ワイフ』に設定が似ているが、こちらの方が30年も先輩。オードリーの小説も忘れがたいけれど、どちらかというと悲恋に酔いたい女性向きの本かな。参考書籍『不思議の扉 時をかける恋』『不思議の扉 時間がいっぱい』【中古】 ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選 ハヤカワ文庫SF/アンソロジー(著者),テッド・チャン(著者),クリストファー・プリースト(著者),ボブ・ショ 【中古】afb