発見:百人一詩その68―小熊秀雄「馬の胴体の中で考えてゐたい」―
「馬の胴体の中で考えてゐたい」小熊秀雄おお私のふるさとの馬よお前の傍のゆりかごの中で私は言葉を覚えたすべての村民と同じだけの言葉を村をでてきて、私は詩人になつたところで言葉が、たくさん必要となった人民の言ひ現はせない言葉をたくさん、たくさん知って人民の意志の代弁者たらんとしたのろのろとした戦車のやうな言葉からすばらしい稲妻のやうな言葉まで言葉の自由は私のものだ誰の所有(もの)でもない突然大泥棒奴に、――静かにしろ声をたてるな――と私は鼻先に短刀をつきつけられた、かつてあのやうに強く語つた私が、勇敢と力とを失ってしだいに沈黙勝にならうとしてゐる私はながらの啞でなかつたのをむしろ不幸に思ひだしたもう人間の姿も嫌になつたふるさとの馬よお前の胴体の中でじつと考えこんでゐたくなつたよ『自由』といふたつた二語も満足にしやべらして貰へない位なら凍つた夜、馬よ、お前のやうに鼻から白い呼吸を吐きにわたしは寒い郷里にかへりたくなつたよ-----------------------谷川雁と同じプロレタリア詩人ですが、中盤までキリストの面影があります。しかし評価すべきはその後の展開でしょう。これこそ、人間の叫びであります。【中古】 小熊秀雄詩集 岩波文庫/小熊秀雄(著者),岩田宏(編者) 【中古】afb