プロローグプロローグ毎年、この時期にはあるデビューがなされる。 「それ」は、長い長い時間をただひたすら暗く孤独な空間で待っていた。 ひとすじの光すら届かないところで、 たったひとりで、 待ち続ける。 ……何を? 明るいところへ出る日を。 ほんのひと時、わずかな時間だけ光溢れる場所に出ることを。 ……何のために? そこで自分の使命を果たすためだ。 「自分」という存在の意味を示すためだ。 ……何に? 他者と、そして他ならぬ自分自身に対して。 ……何故? 自分の命が輝くものであるように。 命あるかぎり、命を輝かす努力をし続ける義務があるのだ。 それは、生きるものの共通の義務だ。 たとえ一瞬であろうと、千年生きる命であろうと、その命が燃えている限り、最大限努力すること。 それが、「生きる」ということだ。 今、「それ」は明るいところへ出た。 初めて見る光…… それを全身に受けた途端、「それ」の身体に変化が起こる。 ……はずだった。 「それ」は、ぎょっと身をすくませて変身を中止した。 その時、普通ではあり得ない事だが、何者かがその場に立ち会っていたのだ。 何かが、自分のことを見つめている気配が感じられる。 そしてそれはひどく荒々しい波動として伝わってきていた。 今まで長い間、自分以外の存在というものに接したことのない「それ」は、初めて出会う他人に怯えた。 しかも、そいつはこちらへ手を伸ばしてきた。 驚きと、いいようのない恐怖! そして……、 自分の成さねばならない事、そのために今まで耐えてきた孤独な時間の事、それらすべてを忘れて、一目散に「それ」はその場を逃げだしていたのであった……。 何者もいなくなった空間。 その空虚な場所に、闇の底から届くような追跡者の声が響く。 「逃ガサンゾ……」 「手ニイレテヤル……」 「探セ、探セ、探セ、探セ……」 |