ACT・9-2「おおっ?」「きゃっ!」 「うわあっ」 貧血の際のブラックアウトのように、突然目の前に黒いカ-テンが下ろされたようだった。 驚きに皆、口々に叫び声を上げる。 一瞬停電かと思ったが、そうではない。目の前の闇は現実のそれではなく、それぞれの頭の中に直接送り込まれたイメ-ジの映像であった。 その、闇の中に何かが見えた。 白い部屋。 白い服を着た者たち。 何かの実験を行っている科学者のイメ-ジ。 おびただしい、実験器具。 実験動物の叫び、吼える声、断末魔の悲鳴─── ビ-カ-やシリンダ-の液体の中に浮かぶ標本─── 切り刻まれ、いじくられ、保存され、陳列される、生命体の部品たち。 その中には・・・ 恐ろしいことに、人間のものが混ざっている! 暗転。 誰かが打合せをしている声。 『──予算的にきびしいのは承知してますが──』 『では、次回の実験用サンプルはこの日の納品に間に合わせて』 『もっとも早く、確実な研究成果が得られるわけですので──』 『大丈夫、いくらでも補充ができますから』 『我々の商品は──』 『これで人類はまた一歩、不死へ近づく・・・』 『もう慣れましたな、こいつらを扱うのにも』 『おい、光栄に思えよ?何の役にも立たないお前らは、この我々によって価値ある存在になるんだぞ』 『その生命を捧げてな』 『その身を切り刻まれてな』 ははははは・・・・・・ 『すごい、新しい発見ばかりだ』 ははははは・・・・・・ 『人間の研究をするのに、人体を使わずにどうしろというのかね、今思えば前にいた研究チ-ムは──』 人身売買人体実験人間モルモット人間牧場人間の商品化──── 人間の尊厳て? くすくすくすくすくす・・・・・・ 皮をはがれ、中身をくり抜かれ、みかんじゅ-す のように血をぬかれ、すかすかのぬけがらは だすとしゅ-と へ あっさりポイ。 ははははは・・・・・・ 『やむを得ないことですな』 『人類がこれからも発展するために』 『あらゆる病気の克服や、長命の実現のために』 (ゴミのように扱われる人間がいるとしても。) 『ま、やむを得ないことですな』 ははははは・・・・・・ それを聞く、うつろな目をした者たち。死ぬために生まれた子供たち。 そこは牧場だった。人間を『養殖』して、出荷しているおぞましい業者がいるのだ。 そしてそれをあてにして、購入する者たちも存在するのだ。 どす黒い欲望を満たすために人は何でもできるのだ────。 暗転。 始まりと同じく、終わりもまた突然であった。 目の前の闇が、ウソのように跡形もない。 幻だ。 「な、何だったんでござる?」 「判らん、オレも見た」 「あたしだって!!」 パニックの学生たち。 「ダニ-、今のは!」 田崎がダニ-を振り返るが、眉間にしわを寄せて無言であった。 この部屋の全員が、今のひととき、同じ幻を見たらしい。 「見たでしょう、あなたたち、人間がいかにエゴイズムのかたまりであるかをね」 エレナだけは、取り乱していなかった。 「今のはFOSの──いえ、およそ裏で似たようなことをやっている奴らのイメ-ジよ。こんな事は世界中のあちこちでやっている事だわ、弱者を踏みつけにして強者がのさばり、さらにその力を増していこうとする──それが人間よ。少し他より力を持ったり優っているような気になると、人はすべてこのような考えを持つのよ。もうこれは人間の『業』ね、欠陥よ、これ以上は人は高みには上れないのよ!FOSもそう、ある程度の力をつけてきたら、もう当初の目的を忘れて組織の力を自分勝手に使い始めた人々がいる。お笑いね!そんな人間を修正するための組織は、結局人間に食いものにされていく──」 ぎりっ、と彼女は唇を噛み、和美を目で示した。 「見なさい、この子だってダニ-の乱暴な精神ダイブのせいで精神のバランスを崩している。このままでは廃人になってしまうかもしれないわ!」 「何だって!」 学生たちが、声をあげる。 「あんたたち、よくも──」 弥生が、怒りの目でダニ-を見る。 その時、エレナの膝ががくがくと震え始めた。頭に巻いた包帯にも血がにじんでくる。 「少し、しゃべりすぎたわ──」 血の気の引いてきた顔で言う。 「さあ、何をぐずぐずしているの、早くこの子たちを──」 そのほんの一瞬、エレナを目眩が襲う。 その隙に、田崎は銃口から逃れようと身をよじった。 「動くな!」 容赦なく、エレナは引き金を引いた。 「ひいいっ」 悲鳴をあげて、田崎は床にへたり込んでしまった。 「うっ」 エレナの目が見開かれる。 マシンガンから発射された弾丸は、一つ残らず宙に静止していたのだ。 「ジョニ-ッ!」 金髪の念動能力者の方に銃口を向けようとしたエレナが、その動きをぴたりと止めた。 自分の胸元へ視線を落とす。 冗談のように、エレナの胸から人間の手が生えていた。 「や・・・、山猫・・・」 ごぼっ、と泡立つような声をあげて、エレナの口から大量の血が溢れだした。 エレナの背から胸へ、指先を揃えた兵藤の貫手がまっすぐ貫いているのである。 「オレたちに銃など向けるからだ」 冷たく、彼は言い捨てた。 「く・・・ショ-ゴ、ごめんなさい・・・」 血の涙を流しながら、エレナはつぶやいた。 そして、それが彼女の最後の言葉になった。 「エレナ!」 省吾が叫ぶ。 その言葉に反応したのか、エレナの身体が一回だけびくんと痙攣した。それが銃の引き金を引く動作になり、残りの弾丸を盲滅法に発射させた。 「ちい」 力ずくで、兵藤が背後から銃をもぎ取る。 「最後まで手をわずらわせやがって」 吐き捨てるようにつぶやくと、胸の悪くなるような音をさせて、エレナの胸から腕を引き抜いた。 まるで人形のように、エレナの身体は力なく床に転がった。 彼女を中心に、赤い血溜まりが床に広がっていく。 「むう、いかん!誰か早くドクタ-を呼べいっ」 血相変えて、ダニ-が叫ぶ。 ハハハ、とジョニ-が笑い声をあげた。 「ハハハ、ダニ-、彼女はもう死んでますヨ。今さら何を──」 そこまで言って、彼はダニ-がエレナの事を言ってるのではないと、ようやく気づいた。 ダニ-の足元で、一郎が胸元から血を流してぐったりしているのだ。 「しまった相沢っ!今の流れ弾に当たったのかっ」 省吾が叫ぶ。 「一郎?」 「一郎ォ!」 「しっかりするでござる!」 学生三人は、大声を上げながらガラスを叩き始めた。 「田崎、早くドクタ-をここへ呼ばんかっ!」 オロオロしている田崎を、ダニ-が怒鳴りつける。 その身体を片手でどかせて、兵藤が一郎の前へ出た。 無造作に髪をつかみあげる。 「何をする山猫、勝手にそいつに触るでない」 ダニ-の声がまるで聞こえないように、兵藤は一郎の顔を覗き込んだり、手首を探ったりして学生たちの方へ振り返った。 「あきらめろ──」 ぼそり、とつぶやく。 「こいつの心臓は止まってる」 冷静に、しかしきっぱりと、臨終を告げる医師のように一郎の死を宣告した。 「な・・・・・・」 ガラスを叩きながら、弥生がへたり込んだ。 「ばかな」 「ウソでござろう?」 呆然と、明郎と陽平もつぶやく。 とても信じられなかった。 まさか、と思う。 あの一郎が、死んでしまったというのか? しかも、こんなに突然に、あっさりと。 例え、今、目の前に血まみれで動かなくなっている姿を見ていても、受け入れられない話であった。 しかし、 「ダメだな、即死だ」 兵藤は、一郎の脈が無いことを確認した。 ・・・一郎は、死んでしまったのだ。 「・・・・・・」 空気が凍りついたかのような沈黙が、部屋を支配した。 学生たちの肩が震える。 悲しみより、彼らにこみあげてきたのは怒りであった。 「一郎ぉ、何やってるの! 早く立ち上がって和美ちゃんを助けなさい!」 弥生のかすれた叫び声も、もはや一郎には届かないのか。 「起きろ一郎!」 「立つでござる、一郎ッ!」 べったりガラスに張りつく三人を後ろから見て、省吾はきつく唇を噛んでいた。 さらに、その先にはうつろな目をした和美が立ち尽くしている。 彼女の心は今、外界とのつながりを断っているためか、目の前で兄が死んだことに対しても、反応を示す様子はない。 ようやく兄妹は出会ったというのに、兄は気を失ったまま死に、妹はその意識を閉ざしてしまっていた。 再会は、成されなかったのだ。 天下無敵と自称していた相沢一郎は、自分の言葉の責任を果たさないまま、この世を去っていった。 和美を助けるためのこの戦いの結末は、最悪の形で幕を閉じたのであった────。 (斎木学園騒動記・END) ☆ ☆ ☆ と、今にも全員の頭上にエンドマ-クが現れそうになった。 まさにその時! FOSのビルのあちこちが爆発を起こした! あたかも、エンディングにはまだ早すぎると訴えるかのごとく。 ジャンル別一覧
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