会社は誰のものかホリエモンは、悪役というレッテルを日本人に貼られてしまいました。彼は、自分の思っていることをそのまま言う正直な人です。 お金が好きなようですが、お金が好きなのは誰でも同じです。 彼がここまでマスコミのマスコットになってしまったのは、「権利」を主張するからだと私は思っています。 前にこのブログの「葬儀場」のところで書いた様に、日本人は問題を「権利」と「義務」の問題として解決するということをしませんね。 お互いの話し合いによる「納得」によって解決しようとします。 穏やかで平和な話し合いの世界に、ホリエモンが「権利」を背負って飛び込んできたので、日本中が大騒ぎになったのです。 しかもその「権利」が国産でなく、舶来だったことも大騒ぎの原因の一つです。 そもそも「権利」という考え方が、日本人にはありません。 日本は明治になってヨーロッパの法体系を導入しましたが、その基礎は当然ながらキリスト教です。 ヨーロッパの法体系は、神が人間に与えた自然法に基づく権利・義務を前提に作られています。 ところが日本人は、人間同士の合意より強力な自然法があるとは思っていませんし、権利を主張しあうという習慣がありません。 「権利」という言葉はもともとの日本語にはなく、ヨーロッパの法律を翻訳するときに新たに作ったものです。 今でも「権利を主張する」という言い方は日本語では悪い意味で使われています。 日本人は、「権利」をそれ自体人間が持っているものではなく、義務を果たした後のごほうびと考えている様です。 そのごほうびを、義務を果たす前に要求するから嫌がられるのです。 明治になって日本がヨーロッパの法体系を導入したのは、幕末に欧米列強の軍艦の威圧の下で結ばざるを得なかった不平等条約を改正する為でした。 日本政府から条約改正の要請を受けたとき、「日本が我々と同じ法律を持ち、それが公正に施行されるならば、治外法権を撤廃しても良い」と欧米列強は回答しました。 自国民が日本国内で裁判を受けるときに、彼らとまるで違う法律で裁かれ、思いもよらぬ判決を受けては納得できないと考えたからでした。 そこで日本は急いでヨーロッパの法律家を雇い、向こうの法律を翻訳させ必要最低限の修正をして、これを日本の法律としたのです。 元来が日本人になじみのない法律ですが、それを積極的に活用しようという気持ちも日本人にはありません。 そのため法律自体が、日本人が使いこなせるほどには完成されていません。 この異国の法律も日本に入って100年以上経っているので、ある程度はなじんできてはいます。 しかし基本的なところで勘違いしていることもまだ多いのです。 法律で規定している概念の本来の意味が分からず、日本に昔からある概念で置き換えてしまうのです。 以前純正日本人と法律上の話をしている時に、双方が同じ言葉で違う概念を表していて、話がこんがらがったことが幾度かありました。 最近、ニッポン放送株を巡って、ライブドアとフジテレビが裁判をしましたが、あれなどはその典型です。 ライブドアは、ヨーロッパ式の株式会社の考えに基づき挑戦していました。 一方のフジテレビは「フジサンケイグループ藩」の論理で受けて立っていたのです。 株式会社は14世紀のイタリアで発生しました。 当時は商人が何人か集まり金を出し合って会社を造りました。 その会社が船をチャーターして商品を仕入れ、遠くアラビアやアフリカに貿易に行ったのです。 船が本国に無事帰り着いたら、会社は船長以下雇い人に給与を払い、買って帰った商品を売却しました。 すべての処理が終わったらその会社を解散し、利益を出資額に応じて配分したのです。 会社とは永遠に続くものではなく、事業が終われば解散するものなのです。 「会社は永遠です」という考え方はもともとはありませんでした。 会社の目的はあくまで利益の追求であり、従業員とは必要なコストで、用がなくなれば解雇して当然の存在です。 ライブドアからみれば、ニッポン放送の社長は大株主であるライブドアの使用人です。 その使用人が、ご主人の利益に反する行動をしたので怒ったのです。 江戸時代の日本では商人以外にも各地の藩がビジネスをしていました。 領内の特産物を大阪へ持ってきて売っていたし、薩摩藩などはご禁制の密貿易を盛んにやっていました。 幕末の雄藩などは、年貢収入よりこのビジネス収入の方がはるかに多く、これが討幕の軍資金になりました。 ビジネスの目的は、藩士(社員)を養うことであり、藩士のレーゾンデートル(存在意義)は戦闘要員です。 従って暇だからといって藩士を解雇するわけにはいかないのです。 ビジネスを行うための資金は、領内や江戸・大阪の商人から借りました。 日本では株主とは、債権者を意味します。 そしてその債権者は、士農工商という身分制度の最下位に位置する商人だったのです。 藩という大きな「企業」の経営者である経済官僚には優秀な者もいました。 その彼らが明治になって失業してしまいました。 そこで三井・住友などの大商人は、新しい時代を生き抜くために、彼らを大番頭にして、事業改革を行わせたのです。 三菱財閥の基礎を作ったのは阪本竜馬です。 竜馬は土佐の郷士出身で、あまりに時代遅れな身分制度に絶望して脱藩し大活躍したことは皆さんもご存知の通りです。 この彼は討幕の資金作りと軍備のために「亀山社中」を設立し長崎に本拠を置きました。 土佐藩は後にこの「亀山社中」に資本参加し、藩を側面から支援する組織とし「海援隊」と名称を改めました。 この彼の子分には、陸奥宗光など明治に活躍した人材も多くいました。 竜馬暗殺後、海援隊を引き継いで三菱財閥にしたのが、土佐藩の下級武士出身の岩崎弥太郎でした。 日本を代表する大企業のトップが下級武士出身者だった為に、日本の大企業は藩と同じ組織・メンタリティーを持つことになったのです。 従って、日本の大企業とはまず、藩士(従業員)を養うためのものです。 株主とはうるさく経営に口を挟む債権者なのです。 今回の一連の騒動で、フジテレビの社長(フジサンケイグループ藩のテレビ奉行)が真っ先に心配したのは、藩士(従業員)への影響です。 そして口にするのは、全てを話し合いで解決するというルールに反するやり方への非難です。 「法律に違反しなければ何をしてもいいのか」「利益がすべてなのか」。 これは前にあげた葬儀場建設反対派の発言そのままです。 法律上の権利・義務を主張しているのではありません。 マスコミは、初めはニッポン放送やフジテレビの味方でした。 江戸時代以来の藩の発想が正しいと信じて疑っていなかったようです。 しかし、会社とは株主の所有物であるという商法の大原則を理解すると、報道が微妙に変わっていきました。 ニッポン放送株裁判は、商法という国際的な関係を律する法律を巡る裁判でした。 そこで日本の商法の本家であるヨーロッパの考え方を裁判所も認めざるを得ず、ライブドアに軍配があがりました。 ところが国内だけの問題を巡る裁判では、ヨーロッパの考え方からは首をかしげるような判決がいまでも多いです。 この事件により日本人は、日本の法律が自分達の発想とはまったく異なる価値観を基礎にしていることに気づいたようです。 ジャンル別一覧
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