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武蔵野航海記

武蔵野航海記

目付3

宗教的感情から来る正義を持つ民族は、その正義を社会で実現しようとします。

そのために国家組織を作り、法律を定めます。

キリスト教の教えとローマ以来の正義を実現するために、ヨーロッパはデモクラシーと近代法を作り上げました。

天から下された正義を実現するために、支那は儒教に基づく皇帝制度を作りました。

ところが日本はこういうものを作る時間的余裕がなかったために、社会制度と法律を支那の儒教から借りてきました。

明治になってからは、国家組織と法律をヨーロッパ式に乗り換えました。

その結果、民族宗教である神道を民族の正義の段階まで発展させることができなかったのです。

国家の制度や法律が日本人の正義に基づくものでないので、便利使いされるだけで本当の権威を持っていないので機能せず、無視されることになってしまいます。

支那の法律もヨーロッパの法律も正義という観点からできているのに、日本人には正義の発想がないので使いこなせないのです。

日本人が今でも紛争を裁判で解決せずに話し合いで済ますというのもここのところからきています。

国家組織も、日本人の正義からきたものではありませんから、権威がないのです。

天皇は日本人の正義を具現したものだと説明できないために、昔から続いているという血統だけが頼りです。

武士の幕府に至っては、頼りない天皇から征夷大将軍に任命されたというもうひとつ頼りないものです。

この頼りない権威を補強するために目付の制度ができたのです。

正義がないので、それぞれの運命共同体を統制し、全体の正義に従わせることができません。

その一方、民族全体の正義がなく仲間意識と「あるべきようは」の発想で、各個人を運命共同体につなぎとめています。

仲間意識とあるべきようはという感覚は客観的基準で判断できるものではないので、ややもすると運命共同体の外にいる人間も仲間扱いすることになります。

日本の組織が内部機密をまもれないというのは、こういう理由です。

この弊害をすこしでもカバーするのにも目付という制度は有用です。

ですから、現在の日本の企業社会ではお互いに目付になっているのです。

目付というものを私が考えるきっかけになったのは、金沢への旅行して前田家の筆頭家老本多家の存在を知ったことでした。

それ以来10年以上考え続けてきましたが、最近になってだいぶ整理が出来てきたのです。

目付というのは極めて日本的な役職です。

存立の根拠が極めて頼りない権力が、少しでもその頼りなさを補強しようとして出来たものです。

また運命共同体の一員が部外者と親密になり、共同体の利益を害するということが起きないように監視する制度でもあります。

つまり運命共同体を補強する役割も持っているわけです。

日本の運命共同体の特徴というのは、それを抑える力が存在しないということです。

昔の軍部や大企業などの運命共同体を抑えるには、国民全体が結束しなければなりません。

そして、国民全体を結束させるのはその民族の正義なのですが、それが存在しないのです。

日本の歴史を長期的に眺めてみると、7世紀までは日本は他国との交渉がありました。

倭の五王などが支那や朝鮮と国交を持っていました。

それが7世紀末から19世紀後半まで1200年間鎖国していたのです。

遣唐使や日明貿易というのは、単にごく少数の学者や商人の交流で国家間の交渉ではありません。

こんなものは江戸時代に長崎の出島であったものと同じです。

日本の鎖国は江戸時代だけでなく千年以上の伝統があるのです。

この千年の間に日本の文化が大いに発展したのですが、鎖国という世界でも類のない特殊な状況下で起きたものでした。

その間に、ヨーロッパや支那では国家どうしがお互いに自己の利益を主張しあい、その主張を通すために正義の概念を発達させていきました。

それに伴って個人も正義という概念を発達させるようになったのです。

そして19世紀後半になり、黒船によって日本は外国と交渉をするようになったのですが、その結果は大人と子供の相撲のようです。

日露戦争はイギリスとアメリカの後押しがあったから勝てたのですが、彼らを敵にしたら見事に負けました。

個人レベルでもそうで、日本人と外国人の交渉など目もあてられません。

最近日本の男と外国人の女の国際結婚が多いのですが、その夫婦の間では女が完全に圧倒しているケースの方がはるかに多いのです。

正義がない状態で、人間関係をなめらかにする「あるべきようは」というのは、今や日本人の利益を全体として害しています。

私は、今日本に一番必要なことは正義の体系を作り上げることだと信じています。


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