楠木正成と足利尊氏
楠木正成と足利尊氏のご紹介です。鎌倉幕府末期から室町幕府成立付近の時代を駆け抜けた2人の英雄の物語です。楠木正成と足利尊氏【電子書籍】[ 嶋津義忠 ]※本記事はネタバレを含みます。【あらすじ】鎌倉時代末期。後醍醐天皇は幕府を打ち倒そうとしますが、何度も失敗に終わっていました。そんな時、鎌倉幕府打倒のため2人の英雄が挙兵します。楠木正成と足利尊氏。立場は違えど2人はお互いを認めあいます。幕府討伐後も続く時代のうねりの中、2人の運命はいかに?【無私の英雄楠木正成】当時は鎌倉に仕えていない武士は悪党と呼ばれました。また、漁師や芸人など農民でない者は政治の埒外に置かれていました。正成はこうした人々も安寧に暮らせる世界を願っていました。後醍醐天皇がこうした政治をしてくれるかは分からないが、とにかく今の幕府は打ち倒さなければならないと考えました。倒幕は成りましたが、天皇や貴族中心の政治を目指す後醍醐天皇は、功労者である足利尊氏の戦力を警戒するようになります。正成は両者の溝が深まるのを憂慮し対話を促しますが、やがて武力衝突にまで発展します。戦下手なうえに面子にこだわる貴族たちは正成の作戦を受け入れず、無謀な出撃を命じます。負けると分かっている戦であっても奮戦した正成は、七度生まれ変わって国のために戦おうと誓って自害します。正成は無私の人であったように思います。武士として覇権を握ろうといった野望を持たず、ただひたすら弱い人たちが平和に暮らせる世を願っていました。戦を始めるにあたって、自分の命で多くの者が死ぬことに心を痛めていました。それだけでなく命を落とす敵方に対しても心苦しく思っていました。時代が時代であったため戦いをしていましたが、彼自身はとても優しい人であったのでしょう。悲劇的な最期もあって、多くの人に共感を呼ぶ英雄であったように思います。【悩み多き英雄足利尊氏】足利尊氏は関東武士の最有力者であり、多くの武士から期待される存在でした。本来は幕府に従う立場なのですが、常々幕府の腐敗を目の当たりにしていた彼は倒幕のために戦います。倒幕後わずかな時間でしたが、尊氏は正成に出会い大きな影響を受けます。鎌倉幕府を打ち倒しても、尊氏に平穏は訪れませんでした。後醍醐天皇は尊氏の勢力を警戒し、排除しようとしてきます。尊氏自身は天皇を崇敬しており歯向かう気は無かったのですが、一族や協力している武士たちは足利氏による幕府の設立を望みます。こうした板挟みに嫌気がさした尊氏は寺に入ってしまいます。ですが後醍醐天皇の軍に攻められ一族滅亡の危機にあって、尊氏は再び戦場に舞い戻りました。やがて尊氏は勝利し、足利氏を中心とする室町幕府が始まるのでした。この小説の主だった人物の中では、尊氏が最も長命でした。病に倒れ死を前にした尊氏に多くの想いが去来します。後醍醐天皇も正成も先に逝きました。幕府を設立するまで共に戦った弟も、やがて政治方針を巡って対立し死を命じました。そして室町幕府は広く人々の安寧のためにあるという方針が、考えてみれば正成の理想であったと思いつく所に何ともいえない余韻がありました。【戦いの時代を生きた2人の英雄】旧体制を打ち壊すのと、新しい体制が平和をもたらすのはまた別問題なんだなあと思いました。後醍醐天皇軍と尊氏軍が激突する前、正成は尊氏に向けて手紙を届けようとします。そこには天皇と直接話をして、双方が納得する落としどころを探すよう書かれていました。ですが手紙を持った密偵が尊氏側に見つかってしまいます。そして足利氏による幕府設立を目指す尊氏の弟によって手紙は握りつぶされてしまいます。一方尊氏もギリギリまで正成からとりなしの手紙が来ないものかと思っていたのが何とも切なかったですね。本作は鎌倉幕府末期という動乱の時代を生きた2人の英雄の物語です。1つの時代を2人の立場から描いているのが面白かったです。自らの理想に生きた正成と、周囲の期待やしがらみの中を生きた尊氏の対比が味わい深かったです。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村