ダラスの疑惑
先日作者であるさいとう たかをさんが亡くなられました。劇画というジャンルの確立に貢献し、代表作ゴルゴ13は半世紀以上連載されています。そして漫画制作を分業化するという仕組みの構築に注力しました。遺志を継いでゴルゴ13の連載が継続するのも、さいとうさんのこうした努力が実を結んでいるのだと思います。そんなわけで今回はゴルゴ13シリーズ、ダラスの疑惑のご紹介です。【中古】 ゴルゴ13 21 / さいとう たかを / リイド社 [コミック]【ネコポス発送】【収録作品】※ネタバレありです。統計解析射撃ダラスの疑惑ケネディ大統領狙撃事件実行に関与した石油会社社長を狙ってダラスに潜入したゴルゴ。しかしその動きを察知していた相手に待ち伏せされて捕らえられ、激しい拷問を受けてしまいます。はたしてゴルゴは無事標的を狙撃できるのでしょうか?この頃のゴルゴはあえて敵に捕らえられることで標的に接近し、隙をついて標的を仕留めるという手段をしばしばとっていました。今はこのような方法をほとんど行っていませんが、一時とはいえ相手に命を握られるのはリスクが高いと判断したのでしょう。それにゴルゴも有名になりすぎてしまって、敵が運よくゴルゴを捕えようものなら「こんなチャンスは2度とない。すぐ殺しておけ」みたいない話になってしまうでしょうからね。この頃は組織単位でゴルゴを迎え撃つ相手がまだ少なかっただけに、組織だった敵を相手にする緊張感のある作品でした。海へ向かうエバ一流の技術を持った女殺し屋エバ。彼女とゴルゴは以前爆弾が仕掛けられた客船に乗り合わせたことがありました。船内がパニックになる中、2人はどうにもならないものは騒いでも仕方ないと落ち着いていました。そんな姿に自分と同じものを感じ、惹かれていました。数年後、エバは街でゴルゴと再会しました。ですがゴルゴは「いや、偶然じゃあない」と伝えます。ゴルゴはエバ抹殺の依頼を受けていたのです。自らの運命を悟ったエバは武器を捨て、アイスを食べたり道端にいた子どもたちと一緒に遊んだりして、少女のように一日を楽しみます。そしてモーターボートに乗っている所を背後から撃たれ、ハンドルに突っ伏すエバ。彼女を乗せたボートが遠ざかっていくのをスコープ越しの目線が映している状態で話が終わります。このカメラワークがとても美しいと思います。数あるゴルゴ13シリーズの中で印象に残った作品は何かと聞かれれば、本作を挙げる人が多いと思います。大人の渋さや切なさを感じさせる名作です。国家秩序維持省オーストラリアのシドニー空港にゴルゴがやって来たという情報をキャッチしたソ連大使館は警戒を強めますが、モスクワから「ゴルゴの邪魔をするな」と連絡が入ります。やがてソ連の国家秩序維持省を裏切っていたスパイが狙撃され、大使館員たちはゴルゴはこのために雇われたのかと悟ります。本作は撃たれたスパイが走馬灯のように過去を思い出すような構成になっています。粗暴な性格でトラブルの絶えなかった彼はスパイになって国家のために働きます。ですがどれだけ危険な任務をこなしても評価されず、いつまでたっても危険な最前線任務をやらされるばかり。やがてアメリカの諜報機関に捕らえられ死を覚悟するのですが、アメリカは二重スパイになるよう持ちかけます。そしてついに粛清されることになったのでした。この話のメインは道を踏み外した男の回想であり、ゴルゴの登場シーンはごくわずかでセリフすらありません。こうした構成が成り立ってしまうのもゴルゴ13シリーズの懐の深さでしょうか。屈指の名作海へ向かうエバや渋い話が収録された一冊ですので、ぜひご堪能ください。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村