思い出ひとこま
思い返してみると、母はいろんな楽しみを与えてくれた。まず思い出すのは毎年夏になると買ってもらう白いサンダル。うれしくてたまらなかった。お正月を迎えるころになると羽子板と羽根を買ってくれた。いまほど物資が豊富でない時代だけにこの贈り物はとてつもない楽しみだった。羽子板も大きな飾り物ではなく、お正月の遊び道具の一つで小さいお粗末なものだけどそれがうれしく、対でついてくる羽根は一枚一枚の羽根が別の色に染められていた。いつもは着せてもらえない着物を着て、家の前の土の庭でお正月の歌を歌いながら羽根つきをしたもんだ。普段それほど遊んでくれたことのない母はこのときは羽根つきの相手になってくれた。姉妹がいないので四季の行事のとき近所の子は遊びにはこないので遊べない。親類は男の子ばかりで彼らは凧揚げを楽しんでいた。遊ぶときの着物は決まっていたが、思い入れのある着物はいまでも和箪笥の中にしまってある。夏の愉しみにもう一つ思い出した。たしか七夕の宵のこと。このときも普段は箪笥の中に眠っている夏用の絽の着物を着て、田んぼの中の細い径を三段の小さな提灯を下げてともだちと列になって歩いた。提灯は三段それぞれに赤やピンクや緑色の鮮やかな色に染められていた。田んぼにはイナゴやばったがぴょんぴょん飛んでいたな。いまの子に話したら想像がつかないからきっと別の世界の話だろうと思うだろうな。幼稚園には行かなかったけどその年頃で、うれしかったこととしてインプットされている。