2005/02/22(火)00:22
お気に入りのお店がなくなる
急な階段は靴のかかとが飛び出てしまう。おまけに天井も低くて煙突を登っていくようだ。公衆便所のようなぺらぺらなドアを開けると洋書がならんだ下駄箱が目に入ってくる、隣の使われていない洗面所には赤い蝋燭が頭で溶けているドクロが置いてあった。レジを前に座っているお店のオーナーと思われる男性はいつも全身黒装束だった。流行のゴス系ミュージシャンというよりも普通のお兄さんで太目大柄だった。外見からは隠しきれない健康的な体臭をいつも発散していた。
オーナー風の店員の他にもう一人小柄な女性がレジを前に座っていることがあった。居ることすら気が付かないほど存在感がなく部屋の備品と言ってもいいくらい無機質だった。うつむいた顔を上げることもなくお客が来ても挨拶もしない。その代わり手元だけは自然に揺れていて、何かを書いているようだった。
レジの横に手作り詩集が平積みにされていた。彼女が持ち込んだ自分の商品のようだった。質の悪い紙を和閉に製本したもので手に取るだけで壊れてしまうと思われる粗末な作だった。にもかかわらず手に取っただけで1500円ですと言われる。さらに値段1500円と手書きで書かれた値札が睨みをきかせていた。
彼女に聞いてみたいことは色々とあった、しかしながら商品購入のお金を払うとき以外、話をするきっかけなどなかった。また何を聞いても帰ってくる答えはいつも「わかりません」だけだった。存在感もなく特徴もない空気のようで外からの干渉を一切断ち切った孤高の存在、それでいてお店の雰囲気を台無しにしても許されてしまう彼女はどういう女なのだろか。経営者と親密な関係でもあったのであろうか。雇用主と彼女の関係などお客にとってはどうでもいいことではある。しかし、商品やお店の雰囲気を期待して来店しているものにとって彼女がいることは非常に迷惑なことだった。