ミステリの部屋

2006/04/10(月)10:27

桜さがし:柴田よしき

日本ミステリ(71)

京都の四季を背景にして、中学時代に同じ新聞部だった4人が、様々な事件に遭遇しながら成長していく、青春ミステリ連作集。 彼らが今でも交流を持つ恩師というのが、猫探偵の正太郎シリーズや、 「風精(ゼフィルス)の棲む場所 」にでてくる浅間寺竜之介です。 彼は教師をやめて推理小説作家となり、今は京都の山奥にログハウスを建てて住んでいます。 もちろん犬のサスケも一緒です。 十年来の仲間である歌義、陽介、綾、まり恵の四人は、中学時代に新聞部の顧問だった浅間寺を訪ねることにしました。 歌義は弁護士をめざすものの、司法試験に何度も失敗し挫折感を感じています。恋人のまり恵は、二人の関係の変化に疲れて、他の人と結婚を前提に付き合い始めています。 陽介と綾も、陽介が東京に行ってからぎくしゃくしているところ。 そんな四人が浅間寺の家の近くまできた山道で、一組の男女に出会います。 お似合いの幸福そうなカップルと楽しいひと時を過ごした彼らですが、その後悲しいできごとが起こったことを知ります。 ところが偶然写真に写っていた「ひとよだけ」というキノコから、ある疑念が浮かんでくるのです。 これが第一話の「一夜だけ」です。 その他に 「桜さがし」「夏の鬼」「片想いの猫」「梅香の記憶」「翔べない鳥」「思い出の時効」「金色の花びら」を収めています。 どちらかといえば青春群像を描くドラマが中心で、ミステリーは味付け程度です。 彼らが迷ったり悩んだりしながらも、自分の生き方を自分で決めようとあがく姿には、若い頃ならではのほろ苦さが感じられ、なかなか雰囲気のある話になっています。 私は、微笑ましい余韻が残る「夏の鬼」が好きでした。 また、それぞれの話に古都らしさ、自然や食べ物の描写があふれているので、今この桜の季節もいいだろうなあと、頭の中で想像が広がり、できるなら今すぐ京都に行ってみたくなりました。   桜さがし :柴田よしき 

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