2006/09/16(土)17:42
夏期限定トロピカルパフェ事件:米澤穂信
小市民たるもの、日々を平穏に過ごす生活態度を獲得せんと希求し、それを妨げる事々に対しては断固として回避の立場を取るべし。
賢しらに名探偵を気取るなどもってのほか。諦念と儀礼的無関心を心の中で育んで、そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を!
そんな高校二年生・小鳩君の、この夏の運命を左右するのは“小佐内スイーツセレクション・夏”。
「春期限定いちごタルト事件」(感想)から1年。
これまで、小鳩常悟朗と小佐内ゆきは、友達でもなく、恋人でもないけれど、「小市民」を目指すため一緒に行動していました。そして高校2年の夏休みがやってきます。
「わたしね……何だか、素敵な予感がしてるの!」綿菓子のような微笑みの小佐内さんは、夏休みに何かを期待しているようです。
一方小鳩君は、「小市民」らしくないふるまいをしても誰も見ていない夏休みに、どうして小佐内さんは自分に会おうとするのか、不思議に思い始めます。
そして「シャルロットはぼくだけのもの」においては、小鳩君がケーキのために小佐内さんに果敢に戦いを挑み、結局“小佐内スイーツセレクション・夏”のすべてにつきあうことになります。
たかが盗み食いのことで、この緊迫感というのがたまりません。
日常の謎解きにほのぼのとして、甘い甘いスイーツに目を奪われる前半です。
シャルロットというケーキも、りんごあめも美味しそうで、読んでいるうちに絶対甘いものが食べたくなります。
この話の結末も甘く、または甘酸っぱくなったりするのかな、と油断していたら、見事背負い投げを決められました。
味わった気持ちは、カカオ99パーセントのチョコレートを食べたときそのまま。
愕然とすること間違いなしです。
振り返れば伏線もしっかり張られていて周到でした。ひたすら感心しました。
前作「春期限定いちごタルト事件」でさえ、今回の驚きのために用意されたかのように感じられます。
こんなにラブリーな表紙なのに、こんなに………だとは。
おかげで、小市民を目指す二人をやや気持ちが悪いと感じていた点も、かすかな違和感も、今回すっきりしましたが……。
これは傑作でした。
秋期はモンブランか、マロングラッセかわかりませんが、どういう展開になるのか、どきどきするくらい期待しています。
夏期限定トロピカルパフェ事件 : 米澤穂信