2008/02/25(月)23:54
太陽の塔:森見登美彦
今日の作品はミステリではありません。
いつも聞いているラジオ番組に本のコーナーがあるのですが、そこで紹介されていたことと、友人に薦められたことで読もうと思いました。
京大5回生の森本は「研究」と称して自分を振った女の子の後を日々つけ回していた。
男臭い妄想の世界にどっぷりとつかった彼は、カップルを憎悪する女っ気のない友人たちとクリスマス打倒を目指しておかしな計画を立てるのだが…。
京都大学大学院に在籍する現役の京大生が書いた作品。2003年のファンタジーノベル大賞を受賞しました。
ここで語られるのは、男汁あふれる日常記なのだ、と文中にあります。しかも読んだら体臭が濃くなるに違いないんだそうで。それは困るな、と思いながらも読んでみました。
まずは独特の文体に引き込まれました。
内容は、京大生の男子が主人公で「まなみ号」と名前をつけた自転車を乗り回し、水尾さんという別れた恋人を研究と称して追い回し、恋愛とは無縁の強烈なキャラクターの友人たちとつるみ、クリスマスを憎悪して一騒動起こす、という話です。
どこがファンタジー大賞なんだ?と思いますよね。
不器用で、汚くて、理屈っぽくて、強がって、「何かしらの点で彼らは根本的に間違っている。なぜなら私が間違っているはずがないからだ。」と言い切る。
独りよがりでひねくれています。京大生のイメージが変わりそうです。
でも、考えてみれば、青春というものの実体は、本人は真剣なのにはたから見ればおかしくて、かっこ悪くて、相当痛いものではなかったでしょうか?
鴨川ではデートする男女が等間隔に川べりに並ぶという「鴨川等間隔の法則」に挑戦するためにわざと男たちで割り込んでみるけれど、逆に寂しさがつのり河原の風に吹かれ立ちすくむのです。
本当に馬鹿だなぁ、と思うし、余りにくだらないことばかりするので笑えるのですが、笑いながらもこのくらいの男の子って、みんなこんなものなんじゃないかと親しみを感じました。
初めはファンタジーというより、男の妄想であふれた物語だと思っていました。
ところが、ちらちらと挟み込まれる、舞台となる京都の町のゆかしい地名や町の風情が意外に美しいのです。
さらに、時に登場する叡山電車がファンタジーの世界に連れて行ってくれます。
真夜中に京都の街を駆け抜けていく光の箱。その姿は夢のようで強い印象を残します。
そして最後まで読んだ時には思いがけずほろっときてしまうのです。
はずれかけた仮面の下がちらっと見えたから。
強がりは青春の純な心の裏返しでした。
強がるなら最後まで強がってほしいとも思うのですが、今の世の中は、硬派としては生きにくいんでしょうね。
太陽の塔 : 森見登美彦
………………………………………………………………………………………………………………
2006年06月文庫化されました。表紙は全く一緒ですねw(2007年7月14日追記)