2008/01/20(日)22:33
バイバイ、エンジェル:笠井潔
内容(「BOOK」データベースより)
ヴィクトル・ユゴー街のアパルトマンの広間で、血の池の中央に外出用の服を着け、うつぶせに横たわっていた女の死体は、あるべき場所に首がなかった。
こうして幕を開けたラルース家を巡る連続殺人事件。
司法警察の警視モガールの娘ナディアは、現象学を駆使する奇妙な日本人矢吹駆とともに事件の謎を追うヴァン・ダインを彷彿とさせる重厚な本格推理の傑作、いよいよ登場。
笠井潔さんののデビュー作であり、矢吹駆シリーズの1作目です。
ミステリマガジンなどの評論でよく見かけていたけれど、この方の文章は内容が難しくてよくわからなかった、という記憶があります。
なのでおそるおそる読んでみましたが、結構面白く読むことができました。
舞台は1970年代のパリ。登場人物もほとんどがフランス人ですから、まるで翻訳物を読んでいるようでした。
最初の見所は司法警察警視の娘ナディアと、現象学を駆使する日本人青年矢吹駆の推理対決。
ナディアは推理マニアの典型のような推理を得意になって披露します。
犯人はなぜ死体の首を切り取らねばならなかったのか?という点についても。
それに対して矢吹駆の推理法は現象学の「本質直感」に基づくものです。
殺人事件の謎解きに終わらず殺人を起こさせた思想について語り、真犯人と対決するところが最大の見所、なのでしょうね。
白状すると、私は繰り広げられる哲学論議の中ですんなり頭に入ってこないような部分は読み飛ばしてしまいました。
それでも、哲学と本格ミステリーとの融合という試みは面白く、次の作品も読みたいと思いました。
1970年代のパリ、陰鬱な灰色の街の何もない寒い部屋で、一日一食という修道士のような暮らしをする矢吹駆は強い印象を残します。
さて、関連したような関係ないような話を……
創元推理文庫には、全て英語のタイトルが書いてあります。
以前、米澤穂信さんのホームページに書かれていた、『さよなら妖精』が文庫化されるときの裏話を思い出しました。
文庫化するにあたって『さよなら妖精』の英題を何とつけるか?という論議の中で、
直訳すると『bye-bye fairy』つまり『バイバイ、フェアリィ』→それは何かの挑戦か?
と書いてあったのが可笑しかったです。
結局『さよなら妖精』は挑戦することなく(笑)ほかの理由も色々あるようで、『THE SEVENTH HOPE』となっています。
『バイバイ、エンジェル』の英題は、『The Larousse Murder Case』でした。
バイバイ、エンジェル : 笠井潔