ミステリの部屋

2007/12/25(火)00:20

金春屋ゴメス:西條奈加

ミステリではないがミステリ的要素を持つ本(19)

300倍の難関を潜り抜け、日本から江戸国へ入国を果たした大学生の辰次郎。 連れは、元外資系金融勤務の時代劇オタク松吉(NY出身・24歳)&28ケ国を渡り歩いた海外旅行マニアの奈美(25歳)。 身請け先は、容貌魁偉、冷酷無比、極悪非道、厚顔無恥、大盗賊も思わずびびる「金春屋ゴメス」こと長崎奉行馬込播磨守だった! ゴメスは、辰次郎に致死率100%の疫病「鬼赤痢」の謎を追えと命じる―。 第17回日本ファンタジーノベル大賞・大賞受賞作。 (「BOOK」データベースより) 友人の強い勧めで読みました。タイトルだけは聞いたことがありましたが、想像していたのは、ごっつい親分ゴメスが主人公のギャグ満載コメディ時代劇。 しかし実態は、SF時代劇でした。ファンタジー大賞受賞作なので、ファンタジーというべきでしょうか。 もしも、江戸時代にタイムスリップしたら… 排気ガスも騒音もないきれいな空気の中で、日の出とともに起き、日の入りとともに仕事を終える生活。 ご近所には困っている人を見過ごせない、おせっかいだけど人情に厚い町の人たちがいて。 空を見上げれば一番星。 さて、今夜のおかずにがんもどきと大根でも煮ようか。 と、ここで我に返る。 パソコンやテレビがなくても何とかなるかもしれないけれど、炊飯器や洗濯機がないと結構つらそう。 便利な世の中に頼り切っている私は、すぐ音を上げてしまいそうです。 この作品の舞台となるのはまさに江戸。けれども、タイムスリップしたわけではありません。 21世紀半ばに日本から独立した「江戸国」なのです。(国際的には日本の属領扱い。) 人々は江戸時代そのままの生活を送っていて、近代的なものは一切持ち込めないという規定があります。入国の際は洋服を着物に替えて、携帯も置いていかなければならないのです。 北関東と東北にまたがる一万平方キロメートルたらずの大きさながら、鎖国もしていて、人の出入りは厳しく制限され、入国できるのは一度だけ、倍率は300倍と言われています。 主人公の佐藤辰次郎はそのすごい倍率を奇跡的にくぐり抜け、江戸にやってきます。 江戸での身元引受は裏金春。 表の金春屋は評判のいい一膳飯屋ですが、裏にある裏金春とは長崎奉行の出張所のこと。そこに長崎奉行のゴメスがいるのです。 江戸で最近発生した鬼赤痢は治療法が見つかっていません。 ゴメスが裏から手をまわして辰二郎を江戸に呼んだのは、今は失われた彼の幼少時の記憶に鬼赤痢を治すためのヒントがある、と見たからでした。 何と言っても設定が面白いです。 ゆっくり流れる時間と、人情あふれる人たちとの触れ合いは心地よく感じられます。 また、ゴメスがすごい。 初めてゴメスと出会った時の描写はまるで怪物です。 悪党たちでさえ名前を聞いただけで腰を抜かすというゴメスですが、その意外な一面が少しずつあきらかになっていきます。 ゴメスを始め、同時期に入国した仲間、岡っ引きたち、同心やもう一人の奉行と、登場人物が魅力的でした。犯人の理屈には首をひねるところもあったけれど、主人公の記憶に謎を解くカギがあるというミステリの部分はしっかり描かれていました。 面白いです。ぜひ続編が読みたくなりました。   金春屋ゴメス: 西條奈加

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