2009/06/30(火)22:37
逃げ水半次無用帖:久世光彦
幼かった遠い昔。狂ったような桜吹雪の夜、母は桜の枝で……。過去をひきずり、胸の底に水色の“虚無”を沈めた絵馬師の半次に持ち込まれる事件は、どれも哀しい。まだ青い林檎のような岡っ引の娘・お小夜に頼られ、慕われ、謎を解いてゆくうち、半次が辿りついた風景とは。江戸情緒あふれる捕物帖の傑作!
(出版社より)
童子は嗤う /振袖狂女 /三本指の男 /お千代の千里眼 /水中花 /昨日消えた男 /恋ひしくば
これは昨年早稲田で行われた道尾秀介さんの講演の中で、道尾さんがその頃読んで面白かった、と言っておられた作品です。
そういう縁がなければきっと手に取らなかったと思います。
久世光彦(くぜ てるひこ)さんといえば、「寺内貫太郎一家」、「時間ですよ」などのドラマの演出で有名ですね。
小説も書かれていた事は知りませんでした。この作品が唯一の時代小説のようです。
主人公である半次は好い男です。
雨上がりの蒼い月と、秋の蝶が似合うくらいに……。
そして、幼い頃母を亡くした時の記憶を、いつまでもひきずっています。
美男子で色気があってどことなく憂いのある男、でもなかなか捕まえられない絵馬描きの半次のことを、江戸の女たちは恨みと愛をこめて「逃げ水半次」と呼ぶのです。
半次は、怪我がもとで足腰が立たなくなった元岡っ引の佐助の世話になっていて、その娘で岡っ引のお小夜が持ってくる様々な事件の謎解きを手伝っていきます。
最後に辿り着いたのは半次自身の謎でした。
江戸を舞台にしたこの作品は、何とも色鮮やかなイメージが広がります。
そして艶っぽい。
こういうものを美文というのでしょうか。
一つ一つの文章からぬめりを帯びているような怪しさが漂い、酔いそうになりました。
謎解きは結構楽しめますし、女の情念や業が描かれながらも最後は明るさが見えます。
私には新鮮なタイプの話でした。
逃げ水半次無用帖 :久世光彦