ミステリの部屋

2010/01/09(土)00:34

妃は船を沈める:有栖川有栖

日本ミステリ(あ行作家)(52)

所有者の願い事を3つだけ、かなえてくれる「猿の手」。 “妃”と綽名される女と、彼女のまわりに集う男たち。 危うく震える不穏な揺り篭に抱かれて、彼らの船はどこへ向かうのだろう。 ―何を願って眠るのだろう。 臨床犯罪学者・火村英生が挑む、倫理と論理が奇妙にねじれた難事件。 内容(「BOOK」データベースより) 作家アリスシリーズです。 火村助教授が、火村准教授になってしまいました。 やや違和感が……。 まったく関係ないですが、看護師より看護婦という呼び方の方が好きですw 長篇かと思いきや、「猿の左手」と「残酷な揺り篭」という中編を、「幕間」でつないだ二部構成になっています。 「猿の左手」は、古典的名作W.W.ジェイコブスの「猿の手」をモチーフとしています。 3つの願いを叶えてくれるけれども、大きな代償を払わなくてはならない、という話。 その解釈が、読み方によって大きく違ってくる、というところで出てくる説には、感心しました。 さすがにミステリ作家は違います。かなり怖いです。 「はしがき」にありましたが、実際に北村薫先生との談義がもとになっているそうです。 「残酷な揺り篭」は、「猿の左手」から2年くらい後の話。 突発的な大地震の最中に起こった事件です。 どちらの中編にも登場する、「妃」と呼ばれる女性がキーパーソン。 貧乏な若い男の子達の面倒を見るのが趣味だそうです。 いつものように、火村先生が推理を論理的に詰めていく様子は気持ちがいいのですが、「妃」のキャラクターがもっと強烈だったら、もっと良かったかも、と思いました。 「猿の手」の解釈を巡っての論議が、とても印象に残りました。             『猿の手』が収録されている短編集です。

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