ミステリの部屋

2010/03/19(金)23:46

退出ゲーム:初野晴

日本ミステリ(は行作家)(42)

穂村チカ、高校一年生、廃部寸前の弱小吹奏楽部のフルート奏者。 上条ハルタ、チカの幼なじみで 同じく吹奏楽部のホルン奏者、完璧な外見と明晰な頭脳の持ち主。 音楽教師・草壁信二郎先生の指導のもと、廃部の危機を回避すべく日々練習に励むチカとハルタだったが、変わり者の先輩や同級生のせいで、校内の難事件に次々と遭遇するはめに―。 化学部から盗まれた劇薬の行方を追う「結晶泥棒」 、 六面全部が白いルービックキューブの謎に迫る「クロスキューブ」 、 演劇部と吹奏学部の即興劇対決「退出ゲーム」 など、 高校生ならではの謎と解決が冴える、爽やかな青春ミステリの決定版。 内容(「BOOK」データベースより) 結晶泥棒/クロスキューブ/退出ゲーム/エレファンツ・ブレス 4編を収めた短編集です。 これも あむあむさん に薦めていただいたのですが、私の好みをこんなにわかっておられるとは、と驚いたり嬉しかったり。 一言でいえば、日常の謎に高校生が挑む青春ミステリですが、それだけではありませんでした。 まず、個性豊かな登場人物。 廃部寸前の高校の吹奏楽部が中心となった物語なので、当然高校生が多数登場するわけですが、その面々が実に個性的です。 主人公で語り手の穂村チカは、やや大ざっぱなところがあるけれど、一番まともです。 そして、幼馴染で頭脳明晰、外見も完璧なハルタが探偵役。 そのほかにも、奇人変人が何人も登場します。 ライトノベル的なノリについて行けたら、しっかり楽しめるでしょう。 活躍する彼らの生き生きとした姿が、もしかしたらこの作品の一番の魅力かもしれません。 ともかく、瑞々しい。 また、謎解きも凝っていて、単に真相を見破るだけに終わっていません。 謎を解くことによって、ある時は亡くなった人の思いを伝えたり、またある時は凍りついてしまった心を溶かしたり、老人の人生を浮かび上がらせたり。 本格ミステリの手法によって描き出される人間ドラマが思いがけず心に響いて、涙が出ました。 また、表題作である「退出ゲーム」に出てくる即興劇が印象に残りました。 演劇部と吹奏楽部が、状況を設定して退出しようとする側と、阻止する側になり、うまく退出できたら勝ちというものです。 彼らはこの難題に果敢に立ち向かい、高校生とは思えない見事さで、予想を上回る着地を見せます。 軽いタッチだからといって、軽い話とは限らない、とても後味爽やかな物語でした。 続編『初恋ソムリエ』も面白かったのですが、感想はまた後日。       

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