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神獣使い達の旅日記

神獣使い達の旅日記

父の愛 後編

1番目のスパインホール洞窟に踏み込むと、強力な気配をいくつも感じた。
「さてと…品物はあるのかな、っと」
気を抜けばすぐにでも洞窟から出たくなるのを押さえ、魔物に見つからないように洞窟内を探索する。
少し探索すると他の魔物とは違い、日記帳らしき物を持った魔物が見えた。
「もしかして…あれか…?」
その魔物から離れないように走り出そうとした瞬間、いつの間にか近くにいた魔物が俺に襲いかかる。
「やべぇ…っ!」
すっかり日記帳に気を取られ、周りへの注意を忘れていた。回避する時間が無い事を悟り、ダメージ覚悟でダガーを握る。
(一撃で死ななけりゃいいがな…!)
魔物の攻撃を喰らう直前、風が魔物を薙いだ。
「――え…?」
突然の出来事で呆然としてると、風を喰らった魔物が俺を素通りする。
(この術は…だけど今頃は家にいるはず…)
「他に気を取られる何てまだまだね。…なんてね」
後ろから聞こえてきた声に振り返ると、ウィンディとケルビーを従えたサマナーがいた。
「ね…姉ちゃん!?何でここに…」
「依頼終わりに姿を見かけたから追ってきたのよ。とりあえず細かい話はこいつを倒してから!」
「あ、ああ!」

襲いかかってきた魔物を倒し、俺は姉ちゃんに受けた仕事の内容を簡単に話す。
「父親が見せたい物を探してるっていう事ね…」
「うん。それでその品らしいものを持ってる魔物を見つけたって訳」
「なるほどね。私も手伝うわ」
「え…大丈夫なの?姉ちゃん」
「装備も物資もあるし、何より同じ冒険者と言えども弟をここに残していくつもりも無いからね」
姉ちゃんの言葉に召喚獣達も頷く。
「ありがと、姉ちゃん」
俺は笑顔で答えた。

幸い品物を持っている魔物は遠くに行ってなかったらしく、すぐに見つけた。
「!あいつだ」
魔物を倒して品物を確認すると、それは日記帳だった。
「結構古そうな日記帳ね…」
「大分海水に浸かってたみたいだな…」
崩れる事は無さそうだけど、海水に浸かっていたせいで内容は全然分からなかった。
「他には…。――あ」
他に何かないかと探すと、見たことの無い文字が書かれている本が落ちている事に気付く。
「何だろこれ…。姉ちゃん分かる?」
日記帳とは違い何か特別な力で保護されているらしく、それ程古くは感じられなかった。
「呪文書、だとは思うけど…。それにしても嫌な感じの呪文書ね…」
召喚獣を使役する姉ちゃんには分かるのか、少し眉をしかめて呪文書を見る。
「あれ…何か挟まってる…?」
挟まっている物を取ってみると、それは報告書みたいだった。
「この呪文書についてみたいだな…」
報告書にはこう書いてあった。
『この呪文は古代の呪いの一種が含まれている。呪文に関わる資料はスマグのリドに送った』
「スマグの…リド。この人に聞けば呪文書の事が…?」
「きっとそうね。さっそく行ってみましょ」

スパインホールを出て、俺達は魔法都市スマグへと向かった。目指すはウィザードの研究室。知り合いのウィザードから、リドはここにいると教えてもらったからだ。
研究室内にいる人達に聞いていき、リドと会えた。
「あんたがリド?」
「ええ、そうですよ。何かご用で?」
「この呪文書を知ってる?」
俺が呪文書を差し出すと、リドは驚いたように目を見開く。
「あ!これ6年前にケチな冒険家のおじさんが読んでくれ、って言った呪文書だね。久しぶりに見ましたよ。それに内容も覚えてますよ」
リドの言葉に今度は俺達が驚く番だった。
「6年前に読んだ事を覚えてるの?」
「読書を愛するようになれば簡単に出来ますよ」
「この呪文書の内容って分かる?」
「分かりますよ~。でも、直に読むと凄く恐ろしい経験をするはめになりますよ?」
「凄く恐ろしい経験?」
首を傾げる俺にリドが頷く。
「これに記されている呪文は呪いの一種です。この呪いは、人間を動物に変えてしまうんですよ。…まあ、小さくて可愛い四つ足の動物という制限なのですが」
リドの言葉に俺達はある1つの事を思い浮かべる。いや、でもまさか、そんな事が…?
「動物に変える、というなら危険な呪文ではなさそうだけど…」
「いいえ、とんでもない話なんですよ!」
姉ちゃんの言葉にリドが思いっきり否定をする。
「この呪い、解く方法がないのです」
「つ…つまり…変わったら二度と元の姿には戻れない、と…?」
信じられない、と思いつつ言った俺にリドは頷いた。
「あの時、そのおじさんにも言ったんですけど…『可愛い子達に素敵な思い出を作ってあげたい』と泣きながらお願いするから…」
「…教えちゃったの?」
「し、仕方なかったんです!入手し辛い鏡戦争13巻を…じゃなくって。え、えっとあんなに必死にお願いされて知らんぷりする事が出来なかったんですってば!」
呆れを含む目で見る俺達に慌てたように言うリド。最初のが本音か。
「あ!そうそう~息子の名前が多分ペナックで、おじさんの名前が…フェロリードでしたよ」
それでは新たに出現した研究文書を検収しなければならないので、と半ば強制的に俺達は研究室から追い出された。
でも、これで…
「姉ちゃん。これで…」
「ええ。全部繋がったわね」

リンケン旅館へと戻ってきた俺達。ペナックが不機嫌そうに眉を顰める。
「まだ生きていたか」
「あんたに、知らせる事実がある」
「何の事実?つまらない遺産についてでも分かったか」
「あなたのお父さんは、思い出に残るプレゼントをあげようとしたのよ」
少しは興味があるのか、ペナックは表情を変えずにいるが俺達を追い出そうとしない。
「どんな物なんだ?」
「魔法の一種よ。ペットに変化出来る呪文」
思い当たる節があるのか、考えるような表情を見せる。
「…父さんに子供の頃、子犬が欲しいと甘えた事がある。だが、金儲けにならない事ばかりに夢中だった父さんは、子犬を買う金が無かった。まさか…それで…?」
「けどな、その呪文には副作用があったんだよ」
「副作用…?」
姉ちゃんがしゃがみ、ペナックの足元にいた子犬を撫でる。
「多分、この子と関連があるわ」
「そんな無茶な…!こいつは4年前、砂漠で拾ったんだぞ?旅行客が捨てて行ったと思ったが…」
「確か、あんたの父さんが去ったのは5年前だったよな?」
俺の言葉にペナックが衝撃を受けて数歩後ずさる。
「まさか…そんな…!?――ちくしょう!悪いが、もう帰ってくれ」
衝撃の事実に混乱しているのか、ペナックは乱暴に髪を掻く。
「…行こうか」
「そうだな…」
旅館を出て行こうとした時、ペナックが呼び止めた。
「…ちょっと待ってくれ。銀行には…遺産を受け取ると伝えてくれ」
それ以上は何も言う事は無い、というように背を向けた。そして俺達も歩き出す。

「…姉ちゃん」
「何?」
「この世界は…色んな事があるんだな」
「…ええ、そうよ」

――冒険は、まだ終わらない。




※後書き※
前編からどんだけ放置してんだ、っていう話ですね。という訳で後編でございます。
量が前編より多い気がしてならない。1つ1つ短くても3つに分けるべきだったかなぁ、とちょっと思いました。

それにしても、クエ関連の小説を書くのも中々楽しいですね。
また書いてみたいなぁと思いました。
それではお付き合いありがとうございました。


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