『生活の設計』で書ききれなかった屠畜の仕事の話を書いたエッセイ。
入社のきっかけ、仕事に慣れていくまでの様子、ナイフの研ぎ方、大宮市営と畜場と芝浦屠場の違い、賃金、怪我、高級取りなのに技能がない年配社員とのいざこざ、辞めていく同僚、小説が受賞して退職したことなどが書いてある。
著者は2001年に退職したようだけれど、退職後に狂牛病対策で仕事のやり方が変わってしまったので、これから屠畜の仕事をしたいという人にとっては情報が古くてあまり参考にならないかもしれない。とはいえ屠畜の仕事について論理的に書ける人はあまりいないし、独自の体験を丁寧に書いているのはよい。
牛や馬は草の栄養で成長しているわけではなく、草は体内に生息しているバクテリアを繁殖させるための媒体にすぎず、反芻されるうちに発酵が進んだ草を養分にバクテリアが爆発的に増殖して、そのバクテリア=動物性たんぱく質を消化吸収することで大量の栄養を得ているので草しか食べない牛や馬が大きくなるというのはうんちくとして面白かった。
単行本が140ページで1620円というのはエッセイとしては分量が少ない割りに高い。文庫本は対談が追加されて570円、電子書籍版は464円なので、興味がある人は文庫本か電子書籍版を買うほうがいい。
★★★☆☆
牛を屠る【電子書籍】[ 佐川光晴 ]