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三角猫の巣窟

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2018.12.15
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カテゴリ:教養書
アメリカの経済が不調で労働者の実質賃金があがらないのは国内の問題で、輸入や国際競争力とは関係ないよと説明する本。1997年に刊行した単行本を文庫にしたもの。

●まとめ

・各国は限られた範囲に生産を特化して、第一世界と第三世界の貿易は高度なハイテク製品と衣料品のような労働集約型の製品を主に交換する。第三世界の低技術製品の生産性が高くなっても第一世界の低技術製品の価格は変化せず実質賃金も変化しないので、第三世界の成長は第一世界に悪影響を与えない。

・労働と資本の大きな違いは国際的な移動の程度で、1920年以後は先進国は経済目的の移住を制限したので、一部の頭脳流出はあるけれど労働者のほとんどは国際的に移動することはない。これに対して国際的な投資は世界経済に大きな影響を与えるが、第一世界から第三世界には資本がそこまでは移動していない。

・競争力という言葉が何を意味するのかについてのまともな議論がない。ほとんどの人が国を企業と似たものと考えて、貿易とは企業間の競争を大規模にしたものと考えているが、国は企業とは性格が違う。貿易はプラスサムゲームで、ひとつの国の利益が他の国の損失になるわけではなく、貿易に関して競争という言葉を使うのは誤解を招く。

・貿易のパターンの変化が国全体としては利益となる変化であっても、短期的に見て国内に勝者と敗者が生まれる。例えば外国のメーカーが品質の高い製品を安く販売するようになれば、国民のほとんどにとっては利益になるが、輸入品と競合する国内産業にとっては打撃になる。自由貿易に反対する意見のうちかなりの部分は既得権益の保護を求めるもので、競争力を高める必要があるとの主張も自己利益の隠れ蓑として使われる。

●感想

私は経済学については無知だけれど、それでもクルーグマンの言うことはなんかおかしいと思う。1997年の刊行当時は労働者が国際的に移動することはないという見解は正しかったのかもしれないけれど、1999年にアムステルダム条約が発効してEU内の人の移動が自由になって、それから2015年の欧州難民危機でアフリカや中東から大量の難民が事実上の経済目的の労働者として流入するようになってドイツには110万人の難民が流入している。イギリスは2004-2016年に毎年移民が平均25万人流入してきて、移民が増えすぎてイギリス人のアイデンティティの問題が起きて保守派がEU脱退の国民投票をしてBrexitが起きた。日本も入管法改正で外国人労働者の受け入れを5年間で最大35万人に拡大した。というわけで今や労働者が資本と同様に国際的に移動するものになっている。
第一世界から第三世界には資本がそこまでは移動していないというのも状況が変わって、先進国の資本が世界の工場と呼ばれる中国に集まった結果、急激に経済成長した中国の資本が世界中に逆流している。中国の台頭は第三世界の成長が第一世界に悪影響を与えている典型例で、中国企業がドイツ銀行の筆頭株主になったり、アフリカの利権獲得に動いたり、一帯一路で途上国に資金を貸して経済的に依存させて中国の支配下に置いたり、政治家に選挙資金を出して親中派議員を送り出してカリフォルニア州が中国の工作拠点になったり、情報を盗むファーウェイがアメリカの情報通信ネットワークで力を持ったり、米司法省が過去7年間で摘発した経済スパイ事件の90%に中国が関与していたことも明らかになったりした。
経済のデータしか見ていないクルーグマンが見落としているのは、いわゆる国際競争力というのが単に国家の貿易収支の増減でなくて、政治力や軍事力や宗教や思想といった統計上のデータに出てこない影響力の増減につながるという点だろう。例えばロシアや北朝鮮への経済制裁は単に気に入らない国を貿易で損させるつもりでやるのではなくて政権の支持率を落として軍事力を減らすことにつながるけれど、なんでクルーグマンが国際競争力の定義の時に政治的影響力を無視しているのか疑問である。保護貿易は何を保護するかだけが話題になるけれど、誰から保護するかというのも大事で、例えば大学生が車を欲しがっているときに店から中古車を買うのとやくざから中古車を買うのは帳簿上はどっちから買っても収支は同じだけれど、ついてまわる影響力が全然違うわけで、やくざに関わらないように親が注意するのは過保護として責められるものじゃないだろう。クルーグマンはこの「誰から保護するのか」という視点が欠落していて、中国に対する警戒心がまるでない。経済学的に統計を見れば国際競争力は問題視しなくていいよと言っても、現実世界は経済だけで成り立っているわけではないので、そこが経済学は役に立たないとかノーベル経済学賞はいらないとか言われる原因なんじゃないかと思う。というわけで、労働者や資本の移動といったクルーグマンの意見の根拠になっていた前提が変わったのでクルーグマンは意見を見直す必要があって、20年以上前に書かれたこの本を今読んでもあまり説得力がない。
トランプは保護貿易をしているけれど、それが全部間違った政策かというとそうとも言い切れなくて、トランプが関税障壁で中国を牽制するのも単なるアメリカ国内の既得権益の保護だけが目的の保護貿易というのでなく、中国の政治的影響力を押しとどめて外交での主導権を得ようとしているという点ではアメリカ国民全体の利益になる政策である。中華思想で世界を中国化しようとする中国と違って、日本は外交的野心がなくて単に商品が売れて儲かればいいやという商売しかやらないので、トランプが壊れにくくて燃費がいい日本企業の自動車を敵視して規制しようとするのはアメリカ国民が不利益を被るだけなのでそこは政策として間違っている。

そういえばコンテンツビジネスでは国際競争力という話は聞かない。アメリカで日本の漫画やアニメを規制してアメコミやカートゥーンを日本に輸出しようという運動にならないのはなぜかと考えると、コンテンツビジネスは資本集約産業でもなく労働集約産業でもなく少人数で少ない資本で製作されるので、設備投資や雇用にたいして寄与しなくて既得権益の保護にもつながらないからだろう。それにコンテンツビジネスではバイアスやプロパガンダはすぐに見破られて外国に対して政治的影響力を持たないので、コンテンツビジネスは国際競争力という文脈で語られないのかもしれない。中国のように外国のコンテンツを規制したところで、規制することが国内のコンテンツ産業の保護につながるわけでもなくて、言論の自由がないうえに外部からの刺激もなくなるとさらにコンテンツ産業が弱体化する。コンテンツビジネスではクリエイター個人の才能の勝負なので、国や国籍や人種は問わずに面白いコンテンツが世界中の消費者に支持されるわけである。
デジタルコンテンツは在庫管理の問題がなくてサーバーにデータを置いておく費用も倉庫代よりは安いし、いったんコンテンツを制作してしまえばインターネットで世界中で売れるので長期的に利益を出しやすい。これから日本が人口減少で衰退するにしても、世界の人口が増えれば増えるほど潜在的顧客が増えるし、発展途上国が経済的に豊かになると娯楽に金を出すようになるし、そのときがコンテンツビジネスにとってチャンスになる。日本は外国人労働者にレタスの収穫とか介護とかの低賃金な労働をさせてピンハネでせこい利益を出すよりも、コンテンツの制作や翻訳ができる高度人材を確保するほうが儲かるんじゃなかろうか。

★★★☆☆

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最終更新日  2018.12.16 11:39:04
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