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カテゴリ:その他・考えたこと
YouTuberが出てきた当初は一生続けられる仕事じゃないよと冷ややかな目で見られていたけれど、小学生がなりたい職業の上位がYouTuberになったり、代々木アニメーション学院がYouTuber科を作ったり、サラリーマンを辞めてYouTuberになる人が増えたりして、それなりに職業として定着しつつあるようである。というわけで、YouTubeについて考えることにする。 ●YouTubeはどうやって優位性を得たのか ・テレビ局のネタ切れ テレビ局はネタ切れして、ネットのおもしろ動画を紹介して芸能人がリアクションする低品質な番組さえ作るようになった。ネットを使っていない一部の老人にとってはまだ需要があるかもしれないものの、いまどきは老人でもテレビでYouTubeを見るので、だったら最初からYouTubeでおもしろ動画見ればいいじゃんという話になる。 ・暇つぶし需要の増大 電話とメールだけのガラケーから高性能のスマホになって、外出時にスマホでできることが増えて暇つぶしの需要が出てきた。頭の固いテレビ局の経営者がネット進出に出遅れた間にすっかりスマホで暇つぶしできる環境が整って、誰もワンセグを使わなくなってスマホでテレビ番組を見るよりもゲームをしたりLINEをしたり動画を見たりするようになった。スマホの手軽さに慣れてしまうと、もう決まった時間に家に帰ってテレビを見るというのが面倒くさくなる。 ・他の動画サイトの凋落 2000年代後半の動画共有サイトの黎明期はどのサイトも似たようなもので、たいていは違法コピーされたテレビ番組や映画などが投稿されていた。独自のコメント機能があるニコニコ動画が頭一つ抜けていて、ボーカロイドやMADやオタ芸やゲーム実況者などの新しいことに興味があるアーリーアダプターのユーザーが集まっている感じで、それに対してYouTubeはニコニコ動画からの転載が投稿されている程度で特に見どころがないサイトだった。 ●YouTubeは新しい需要を発掘した ・日常の価値を発掘した 今までのテレビは主にプロフェッショナルを映してきた。プロの料理人のレシピ、プロのメークアップ、プロのファッションコーディネート、プロのお笑い芸人の漫才とか、専門性が高い人による価値のある情報を番組にするわけである。『アタック25』や『新婚さんいらっしゃい』や『学校へ行こう』や『ぽつんと一軒家』のような素人参加型の番組もあったけれど、司会は芸能人がやってディレクターが面白い部分を編集して、素人臭さがつまらなさにならないようにプロが制作を主導しているという点で素人のコンテンツとはいえない。 ・テレビに出ない専門家の需要を発掘した ニコニコ動画はネットやアニメが好きなオタク向けというイメージで荒らしコメントやホモネタが多くてまともな一般人からは敬遠されたのに対して、YouTubeはインターネットミームに汚染されていないので、いろいろな分野の専門家がニコニコ動画よりも視聴者層のイメージのよいYouTubeを使うようになった。 ・テレビに出ないマイナーなスポーツや娯楽の需要を発掘した 競艇は独自の動画サイトを持っているのでYouTubeに頼らなくてもよいけれど、資金力が乏しいスポーツや娯楽は設備投資せずにYouTubeで配信できるのは大きなメリットになる。野球のリトルリーグの試合映像とか、大学のラグビーの試合映像とか、囲碁のライブ中継とか、テレビで放送したら視聴率がとれないようなマイナーなコンテンツでも数百人のファンや関係者は見るし、全国大会とかなら数万人は見るので、ニッチな需要を満たすことができるようになった。 ・テレビに出ない芸能人の需要を発掘した YouTubeは収益化しやすいという点で他の配信サイトよりも配信者にメリットがあるので、元SMAPの人がYouTuberになったり、お笑い芸人がYouTuberになったりして、芸能人が本格的にYouTubeに参入するようになって視聴者としてはテレビ以外でも好きな芸能人の動画を見られるようになって選択肢が増えた。 ・地方の需要を発掘した テレビだと地方局の番組は他の地域では見られないので、県外の人は観光情報を知りたいときにウェブサイトや本などのテキストの情報や写真に頼らざるをえなくて、十分な情報を持っていなかったりする。しかし地方都市在住のYouTuberが地元の祭りやイベントを動画にしたり、方言の意味を解説したりすることで、県外の人でもそこがどういう雰囲気の地域でどういう文化があるのかが分かりやすくなった。観光名所でないような地味な場所やマイナーなイベントの魅力もちゃんと発信されることで、観光客は旅行の際の選択肢が増えた。 ・外国のニュース番組の需要を発掘した 今まで外国のニュース番組を見るには衛星放送やケーブルテレビを契約しないといけなかったけれど、YouTubeで外国のニュース番組が無料で見られるようになった。アメリカのBloomberg、カタールのAl Jazeera English、イギリスのSky News、ドイツのDW News、フランスのFRANCE 24 English、オーストラリアのABC Newsとかは英語のニュースをYouTubeでライブ放送しているので、世界で起きている出来事を日本のメディアを通さずに知ることができる。日本のメディアは外国に記者を派遣しているけれど、現地の情報をまとめるだけで独自情報はないし、情報を出すのが遅いし、バイアスがかかっていることがあるし、外国で大事件が起きていても日本では扱いが小さかったりするので、外国に興味がある人にとっては外国のニュース映像を直接見れるのは大事である。クリミア危機が起きた時は銃撃戦がライブ配信されていたけれど、こういうのは日本のテレビ局だと放送できない。 ・特殊な映像の需要を発掘した YouTubeだと24時間生放送を続けることができるので、アクアリウムのライブ映像の垂れ流しや作業用BGMの垂れ流しのようなテレビの深夜番組でもできないようなことができるようになった。GoProやドローンや360度カメラなどであちこちの風景を普段とは違う角度から撮れば面白い映像になるし、編集で効果音や特殊効果をつければもっと面白くなる。 ●動画が収益化できるようになって問題が起きている ニコニコ動画は目立ちたがりの人が家で花火をしたりして変なことを注目を集めて満足していたけれど、YouTubeは収益化ができるようになったせいで目立ちたがりの変人にいっそう拍車をかけたり、金儲けだけが目当てでまともにコンテンツを作る気がない人も集めることになって、様々な問題が起きている。 ・コンテンツファームになる 子供のおもちゃ開封動画、ひたすらガチャを回す動画、100円ショップで買ってきたものを紹介する動画、Amazonで届いたものを開封する動画、コンビニの新商品を食べる動画、激辛のカップラーメンを食べる動画、他のYouTuberへ物申す動画、アニメを見た反応の動画、ワンピースの次の展開の予想の動画、TikTokの人気動画のコンピレーション、素人のカラオケ動画、ペットに餌をやる動画などは創造性や専門性がなくても誰でも簡単に作れるコンテンツである。ゲームの実況プレイの場合はe-sportsのように腕前や戦略に差がでるゲームなら専門性があるけれど、RPGのように誰がやっても同じストーリーになるゲームの場合は世界中のプレイヤーが似たような動画を投稿することになって差別化ができなくなる。 ・コンテンツが過激化する 似たようなコンテンツだらけになると他の動画と差別化するためにコンテンツが過激になって、危険ないたずらをしたり、炎上目当てで他人に絡んだり、ポルノもどきのASMRのコンテンツを作ったり、政治的なバイアスがかかったヘイトスピーチの動画を作るようになる。社会的に悪影響がある行為をするクリエイターにも金を払うGoogleに問題があるのだけれど、Googleが取り締まる気がない以上は過激なコンテンツが増え続けることになる。一部の広告主が怒ってYouTubeから広告を引き上げたのでGoogleも規約を若干厳しくして対応したけれど、私はGoogleの対応はまだぬるいと思う。 ・モラル違反の手法が行われている ブログの広告やアフィリエイトが儲かった2000年代は、コピーした内容、キーワード詰込みなどのブラックハットSEOを使って儲けようとする人が多くて、金儲けのためだけに作られた役に立たないウェブサイトが検索結果の上位を汚染していた。それが今度はYouTube上で行われている。 ・ステルスマーケティングに利用される ウェブサイトには口コミサイトを装って商品のいい点だけ伝えて欠点は批判しないアフィリエイトブログとかがあるけれど、YouTubeでもスポンサーから無償提供された商品を褒めまくるだけのステルスマーケティングのような動画がある。 ・うさんくさい人も参入した YouTubeが儲かるとわかると企業舎弟やDQNやうさんくさい人も参入してきて、いろいろ問題を起こしている。マネジメント会社と所属YouTuberとの間でトラブルが起きてゲーム部プロジェクトというバーチャルYouTuberグループが運営への不満を暴露して解散したり、ゲーム機のプレゼント企画で子供の登録者を増やしても実際はプレゼントを発送していなかったり、オフ会で視聴者をナンパしようとしたり、マニュアル通りに動画を投稿すれば儲かるといって情報商材を売るうさんくさい企業が出てきたり、YouTuberを広告塔にして稼ごうとするうさんくさい企業が出てきたりしている。ラファエルというYouTuberがうさんくさい投資案件の紹介動画を作ったりしてメインアカウントをBANされてもすぐに別のアカウントを作って復帰したように、永久BANがないので悪質なYouTuberがいてもいたちごっこになっていてあまり自浄作用が働いていない。 ・子供に悪影響を与える可能性がある テレビの場合はBPOがあるので、視聴者からクレームがきたらそれが製作者にも反映されて、ある程度自浄作用がある。しかしYouTubeの場合はよっぽど悪質な動画以外は野放しなので、クリエイターの自由度が高い分、視聴者にとっての危険も多い。判断力が乏しい子供にとっては一層危険である。道徳的で教育的な動画は子供にとってつまらなく映って、非道徳的で危険な動画は子供にとって面白く映る。例えば熱い飲み物をストローで飲むチャレンジをする動画をまねしてやけどを負った子供がいたし、子供向けのアニメ動画に自殺を促すメッセージが混ざっていたのも問題になった。おにぎりを三十秒で食べるチャレンジをしているYouTuberがいるけれど、動画配信中に赤飯おにぎりを一口で食べようとして喉を詰まらせて亡くなったYouTuberもいて、子供が真似したら危ない。ロリコンがキッズYouTuberに卑猥なコメントをしたのも問題視されて、未成年が出ている動画はコメント禁止になった。 ●これからYouTubeはどうなるのか YouTubeは規約がころころかわって広告を剥がされて投稿をやめるクリエイターもいるし検索も使いづらいし見たくないYouTuberがおすすめに出てくるしもうだめだという意見もある。しかし私はまだYouTubeは過渡期でこれからもっと良くなっていく可能性があると思う。理由としては、YouTubeの規約が次第に厳しくなって質の悪い動画やクリエイターを駆逐しようとしていること、ビデオカメラやパソコンパーツが安くなって比較的安価に高画質の動画を作れるようになったこと、5GやWi-Fiなどの高速通信網が整備されること、今後4Kテレビが普及したら大画面で高画質で見れる動画の需要が増えること、AIが仕事を効率化すると暇つぶし需要がさらに増えること、事業系YouTuberなどの高い専門知識を持った人が参入して競争が起きると動画の質が高くなること、企業が変なYouTuberとタイアップするよりも広報をYouTuber担当者にして独自のコンテンツを作ろうとし始めていることが考えられる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.09.28 21:04:52
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