雨か涙か、またここから
パニック障害の発作に苦しみ怯える毎日。それでも半年前に診断された鬱症状からは少しずつ少しずつ回復傾向。人生で2度目の休職中。主治医からも家族からも会社からも仕事を続けるのは難しいと言われ無我夢中でやってきた仕事を辞めることになった。致し方ないことだと理解しているつもりだった。…そして今日。職場の片付けに行ってきた。なるべく人に会わないようにと夜遅くにこそこそと…それこそ泥棒のように。半年ぶりに入る職場は消灯時間も過ぎ真っ暗な廊下に自動販売機の光と機械音非常ベルの赤い灯りと非常口を知らせる緑色の灯りで遅すぎるクリスマスを演出しているかのようだった。デスクに向かい私物を取り分け必要だった書類をシュレッダーにかけ部下とやりとりしたメモに目を通し懐かしい気持ちと一緒にゴミ箱へ。ロッカーや下駄箱をキレイにして…ダンボールを抱えてクリスマス気分の廊下をひたひたと足音だけ残して出口へ向かう。長居はできない目を閉じれば賑やかで慌ただしい昼間の空気を思い出すように感じる。…出口の前で一度だけ振り返り感謝の心で一礼して職場を後にした。車にダンボールを積む頃には雨がパラパラと落ちていた。運転席に座りエンジンをかけ会社を背に家路へ向かう。車内にはワイパーが動く規則的な音だけが鳴り響いていた。…あぁこれで最後かぁ大好きだった祖母の最期に寄り添おうと地元に戻って就職した10年前。田舎の街や人や仕事のクオリティの低さに落胆していたあの頃。それでも無我夢中で仕事に打ち込み誰からも恨まれる程のスピードで出世してがむしゃらにやってきた。たくさんの部下に囲まれ仲間と呼べる人たちにも巡り合うことができた。きっと…楽しかったんだなぁこんな形で去ることになって申し訳ないなぁまだまだ道半ばだったのに悔しいなぁ色々な感情が心を駆け回る。気付けば車内にはワイパーの音とこれまた規則的に鳴るハザードの音。カチカチと黄色に光るランプを視界に感じながら路肩に停まっている俺がいた。「 俺、がんばってたんだなぁ 」ハザードランプの音に負けそうなくらいの小さな独り言が意識のない所で口からこぼれ落ちた。ハザードランプの光が滲む。きっと雨が視界を滲ませてるんだ。意味のない強がりを自分に言い聞かせながら周りの音を消し去るくらいに泣いていた。これもまた人生。生きることを選択しつづけることは当たり前のようで難しいこと。それでも今を明日を生きていけるように…自分のペースで心を育てよう。今日の雨はずっとずっと心に残るんだろうなぁ。前ばかり見れる程強くないけどそれでもきっと来る明日を一歩一歩。のんびりのほほん頑張りすぎないことをがんばろう。 雨か涙か、 さんぱち